STEINS;GATE―シュタインズ・ゲート― 円環連鎖のウロボロス 1 / 5pb.×ニトロプラス・海羽超史郎

ずっと気になってはいたもののノベルゲームが苦手で手を出していなかった作品のノベライズ。周りで評判が良かったので手にとってみました。
科学ADVと銘打たれているだけあって、どこまでが空想科学でどこまでが現実の話なのか文系にはさっぱり区別のつかないSF的な話が展開していきます。主なテーマはタイムトラベルと平行世界で、そこに行き着くためにブラックホール加速器とかが出てくるような感じ。
550ページもある一巻ではありますが、やっていることは主に設定の解説やキャラクターの掘り下げといったところで、最後の最後でついに本章に入ったような印象でした。作品の持っている世界観や科学周りの設定の出し方が、自称マッドサイエンティストな主人公視点から難しすぎず簡単すぎないバランスで少しづつ明かされていくような感じ。電話レンジ(仮)という時を遡ることのできる偶然の産物から、だんだん大きな組織の影やその背後にある理屈が明かされていく辺りは興味の引き方が巧いと思います。特にゼリーマンズレポートのくだりはゾクッとするものが。
そして設定そのもののワクワク感とともに、物語とキャラクターの魅力も。鳳凰院凶真を自称する大学生岡部倫太郎が主人公なのですが、中二病全開の設定語りや奇行を前面にだしつつ、その度に地の文で「ご了承ください」の乱舞する分かってやっている感と意外なまでの常識人ぶりはとっつきやすいですし、@ちゃんねらーでデブオタクなスーパーハカーのダルも、いわゆる典型的オタクキャラですがうっとうしさは感じさせません。そんな二人がいることでその手のネタが詰め込まれた文章は好みは分かれそうですが、専門用語に目が滑りそうになるところを読ませてくれるという意味ではありがたくもあったり。
そしてヒロインたち、主にまゆりとクリスの存在。特にクリスは、登場時には冷たい天才少女のように見えて、岡部たちとの関わりの中でだんだんとまっすぐな科学者であると共に残念な少女であることが分かってくるのが良い感じ。そして彼ら彼女らのつくりだすラボの空気も、大学のサークルや研究室の理想みたいなどこか和気藹々とした雰囲気にあふれていて魅力的です。「クリスが殺されていた」はずというところから、セクハラハプニングで始まる岡部とクリスの出会いにしても、その後のツンデレぶりや心をひらいていく展開にしても、お約束まっしぐらで非常にあざとい感じなのですが、作品全体の雰囲気も合わせてスマートに見せている辺りも巧いです。
そんな感じの設定とキャラを描く中で、端々に織り込まれる衝撃的なできごと。見逃してはいけないように思える事実。表面の事象は分かっているのにどんどん深くなる謎。そして完成してしまった装置。全てのお膳立ては整い、そしてついに動き出した物語。この散りばめられや沢山の伏線はどのように回収されていくのか、キャラクターたちの抱えた想いに世界線に立ち向かっていった彼はどういう答えを見せてくれるのか、これは早く2巻も読まなければと思う一冊でした。