なれる!SE 4 誰でもできる?プロジェクト管理 / 夏海公司

相変わらず読み始めるまでに気合の必要ななれる!SEの最新刊。
開始早々、そもそもPMをやる予定だった企業が逃げ出した後釜という、どう考えてもムチャぶりなやり方で炎上寸前のプロジェクトのPMを振られた工兵と室見がベンダ会議で針の筵になる、読んでいて胃が痛くなるようなシーン。
その後も破綻したスケジュール、触れたことのないPM業務、言う事を聞かないベンダ各社、役に立たない発注元という四面楚歌状態でなんとかPM業務を全うしようとする訳ですが、ツールを学べばそれに踊らされてまた総スカンをくらったりでプロジェクトはそもそも走りだすことすらままならず。ただ、工兵が主人公足りえる理由はこんな逆境にあっても決して諦めないことにあるのだと思います。
知識も、技術も、経験も新人だから当然足りていない。それでも、大きすぎる問題に真正面から単身突撃して、何度倒れても立ち上がらる、喰らいつく、諦めない。逃げたくなる気持ちは当然あって、普通の人なら気持ちが持たないようなできごとに立て続けに見舞われても、そこで彼が感じる一番大きな感情は悔しさで、それをバネにして根性を見せられる。飲み込みの速さも、コミュニケーション能力ももちろん並外れていますが、工兵の一番の凄さはそういう所なんじゃないかなと思いました。そして持てるカードは全て行使して、最後の最後には乗り越えて見せる。後半にかけての盛り上がり、熱さはこれぞ主人公と思います。
話的にはPM業務ということで、実作業よりもベンダ調整がメインに描かれているのですが、そんな中でも光ったのは相変わらずの工兵のジゴロ力。狙った女性担当者は逃さず落として味方に引き込む手腕は見事しか言いようがありません。まじ工兵さんパねーッス。ちなみに業界ネタ的にはPMのあれこれよりも巻末の雇用形態の説明がぶっちゃけすぎでいろいろ笑えるような笑えないような……。
そしてこの巻では、室見というキャラクターの素顔に迫ってきている感じも。見た目10代で技術バカで横暴で暴力的ででも頼れる上司という彼女の仕事上のキャラクターの向こう側。その掘り下げがあったのは少し意外な感じ。こういう描写に触れるということは、この作品はやっぱり室見がヒロインで、工兵と室見の物語でもあるのだなという感じました。今回見えてきたことは、室見という人間の謎を増すばかり。そんな彼女の心の奥がこの先どう描かれていくのか、そして確実に近づいている工兵との関係がどうなっていくのかが楽しみです。
そして個人的にはやっぱり室見のピーキーすぎるキャラクターが好きだと思ったり。突出した部分と欠けた部分、しっかりした部分と不安定な部分、落差の大き過ぎるものがいっしょくたになって作り出されたちょっと歪んだ人物像が私は好きなんだろうなと思います。
あ、あと藤崎さんみたいな上長にはどこへ行ったら出会えるでしょうか!