GOSICK8 下 神々の黄昏 / 桜庭一樹

「世界がどう変わろうとも、これきり、君と離れるものか」

シリーズ完結。読むことができて良かったと心から思える、本当に素晴らしい物語でした。
世界に吹き荒れるおおきな嵐。その中で、捕らえられたヴィクトリカと、祖国に連れられて少年兵として従軍する久城。二人の物語の行方と、また彼らに関わる他の人々の想い。ここまでシリーズの中で少しずつ積み重ねられてきたもののまさに集大成というクライマックス。旧き時代を新しい時代が塗りつぶしていくような、大きな大きなある種神話めいた物語のうねりの中で生きる人々の物語。
とにもかくにも、語られる大きな物語の迫ってくる力と、そこに込められた登場人物たちの想いの強さにあてられて、作品の中に呑み込まれるような力のある一冊でした。冒頭から古い世界の母狼としてのコルデリアの想いに、灰色狼の妹を持った兄としてのグレヴィールの決意に思わず目頭が熱くなって、その先はなんだかもうずっと涙ぐんでいたような感じ。
ふるい時代からあたらしい時代へと塗り替えていく、おおきな嵐。それは不思議な力が支配した、神々の時代の終わり。そこでは、たくさんのものが失われていきます。オカルトの力は、古き者たちは消えていき、旧世界の国々は焼かれて命は失われる。それはまた、久城とヴィクトリカが過ごしたマルグリッド学園での日々、子供時代の終わりでもあります。図書館塔の金色の妖精。小さな家の主。お菓子、パイプ、灰色狼。人ならざる力を持った、超然としてふわふわとした、旧時代の象徴のような存在。そのヴィクトリカは本来ならば時代と共に消えていく運命で、けれど彼女には久城がいた。
失って失って、それでも生きていく。未来へと。二人で。変わっていくことを否定的な意味で捉えてない、勇敢さと想いの強さで前へと進むために闘う物語。そうなったのは、ヴィクトリカの隣に久城がいたからで、久城の隣にヴィクトリカがいたからで、だからこそ春先の出逢いから始まって二人が積み重ねてきた時間の全てが、今ここでこんなにも愛おしくて、固く強いものに思えるのだと思います。そして二人の行く末に、引き裂かれてもなお二人を繋いでいた愛の力を感じました。そのまま言葉にしてしまえば安くなってしまうような気がするのですが、それでもこれは愛であり、愛でしかないと思うのです。
時代の移り変わりは容赦なく人を蹂躙して、荒れる波に翻弄される小舟のようで、けれどそこで人は生きて行く。喪失を繰り返しても、また未来へと。それはヴィクトリカと久城だけではなく、アブリルも、セシル先生も、グレヴィールも。これは、そうやって生きる、小さくて、けれど強い人たちの物語でした。
レーベルが消滅したり、作者をとりまく環境が変わったりして、ファンとしては続きが読めるのか心配になることも多かったシリーズでしたが、こうして素晴らしい締めくくりを読むことができて嬉しいです。本当に、このシリーズに出会えて、ここまで読んできて良かったと思える最終巻でした。素晴らしかったです。