六花の勇者 / 山形石雄

六花の勇者 (六花の勇者シリーズ) (集英社スーパーダッシュ文庫)

六花の勇者 (六花の勇者シリーズ) (集英社スーパーダッシュ文庫)

魔神が蘇ったとき、それを倒すために選ばれし6人の勇者。しかし、集まった六花の勇者たちは7人いた、という設定からして期待感が高まる一冊でしたが、その期待を裏切らない面白さでした。
魔神を倒すための勇者や魔法めいた力を使う聖者たちの設定などはファンタジーなのですが、そこで展開する話はクローズドサークルの中で一人の偽者を暴きだすというミステリ的なもの。魔神を倒すべく集まった者たちの中に、魔人に与するものがいる。当然のごとく、7人の間には疑心暗鬼が溢れます。
そんなキャラクターたちの考えや行動、そしてめまぐるしく情勢の変わっていく展開。メインで描かれるアドレットと、彼の周りにいるキャラクターたちとの衝突や協力、そして芽生える想い。7人の思惑が入り交じって複雑になりそうな展開を、アドレットに疑いがかけられるという大きな流れと、その疑いの大元となった結界発動の謎というところの解明という軸で、拡散させずに描いているのが良かったです。驚きの事実や予想外の展開はありつつも、描写は常に地に足がついていて、読んでいて訳が分からなくなることはない安心感がありました。
そして主人公であるアドレットも、少し変わったキャラクターながら魅力があります。地上最強を自称する凡人。だからこそ勝つためには何でもするし、決して諦めない。信じる、笑う、諦めないという、どんな状況にあっても強引なまでの前向きさで突き進む姿は、いわゆるヒーロー的ではないのですが、魅力的なものでした。他の6人もそれぞれ個性があるのですが、中でも個人的には猫男で暗殺者なハンスが好き。他人と積極的にぶつかるわけではなくても、自分自身の考えだけは決して曲げない個人主義っぷりと、それを裏打ちする実力があるというのが良いです。
そして物語の終盤。魔神側と強く関わるキャラクターが登場するだけに、単純に倒す倒されることを是とするべきかという問題はどこかで出てくるのかと思っていたのですが、それが予想外の方向から語られたのは驚き。そして、その驚きをも超えるラストの展開にはやられました。そういうものとしてもう一度この物語全体を捉え直すと、また全く違う真実が見えるのではないかという。
はられた伏線はまだいくつもあって今後の展開は全く読めないながらも、何通りにも「もしかしたら」を考えさせてくれるような引き。読み追えてすぐに、早く続きをと思うような一冊でした。面白かったです。