楽園まで / 張間ミカ

楽園まで (徳間文庫)

楽園まで (徳間文庫)

楽園はあるよ。

白く、どこまでも白く、雪が降り積もる世界の中で、悪魔と呼ばれ追われる双子の姉弟が、楽園を目指した物語。
その冷たい空気まで伝わってくるような、ただひたすらに真っ白な世界が広がるイメージ。その中で、オッドアイで異能を持つという理由で教会に追われる双子。ただ生きて、幸せになりたいだけなのに、神様を掲げた世界の歪みは不条理となって二人を襲います。育ての親であるヨハンを失い、弟のヨハンは心を殺して、彼の手を引いて一人ハルカは目指します。ヨハンが語っていた、楽園を。
二人が何をしたわけでもなく、異端とされ奪われ失い続ける圧倒的な不条理。どこまでも追われて、傷ついて泣きそうになって、それでも何も喋らないヨハンの手を引いて、どんなに惨めになろうとも生きようとするハルカの姿。孤独も悲しみも痛みも、全てに押しつぶされそうでも、ただ楽園を目指して。
後半に進むにつれて、追いつめられて救いのなくなっていく展開に、白い世界がどんどん真っ白に染まっていくような気がして、ページが重たくなっていくような、息が詰まる様な想いがしました。ただ、それはある意味で美しいものでもあって、そこもまたこの作品の魅力なのだと思います。美しくて、哀しくて、儚い。あるはずがないと知っていても、楽園を目指すことしかできなかったまだ幼い姉弟の物語。教会だとか、神様だとか、悪魔だとか、そういう設定も含めて、哀しく切ない、けれどこんなに綺麗な物語はないとも思うのです。一面の雪に埋もれた真っ白な世界を弟の手を引いた少女が歩いて行く、その強烈なイメージだけですらもう。
そして、物語はただ哀しいだけの、終わっていくだけの物語とはなりませんでした。そこにたどり着いたらもう、すべてが終わってしまうのではないかという予想を裏切って、まだ、先へ。何もない、失われた世界のイメージに、一筋、ほんの一瞬の後には消えてしまうかも知れない、幻のような光が見えるようなラスト。読み終わった後に、「歩いて行こう」と思うような、やっぱり美しい物語だったと思うのです。