神様のメモ帳 8 / 杉井光

神様のメモ帳〈8〉 (電撃文庫)

神様のメモ帳〈8〉 (電撃文庫)

雀荘を荒らしていた雀熊たち、援交をして襲われる少女たち、そんな事件を結ぶ一つの線は、始まりのあの事件の「エンジェル・フィックス」。
短編3つで一つの事件の形を取っている神メモ8巻目は、ここに来て鳴海がアリスたちと出会うきっかけであり、彩夏が記憶を失った原因でもある、あのクスリにまつわる事件。だからそれは、鳴海と彩夏が、沈めたはずのあの時に、もう一度向きあう事件でもあって。
そこに四代目の両親の東京襲来を絡めた鳴海と四代目の関係も絡んでくる構成は、短編ごとに主眼を置く事件が違うこともあって色々な要素が散らばっている印象も受けるのですが、それがごく自然にそういうことだったという感じでひとつになっていく辺りは巧いと思いました。どこまでも感傷的で、どこかふわっと掴みどころのない作品の雰囲気、そしてここまで積み上げてきたキャラクターの魅力と、シリーズが長く続いているだけあって、目新しさはなくても安定の面白さがあると思います。
なんだかんだですっかり周りから認められている鳴海は、その手際の良さやふとした瞬間の鋭さ、そして詐術めいたやり口まですっかりそっちの世界で生きていく人に。今回は事件が事件だけに、今まで通りにぐずぐずしている時もありますが、それでも自分から動いて何かを解決することに自覚的になってきているので、読んでいてすっきりとした気分にしてくれます。ただ、社会のちょっとした暗部を、限りなく綺麗に描くような物語は、やっぱり事件の最後に割り切れない後味の悪さも残して。
一度ついた傷は消えやしないし、そこに向きあえば苦しむかも知れない。失ったものは帰らない、踏み外した足だって戻らない。ただ、それでも、そんな不安定で残酷な世界の中で、少しだけ残って、たしかにそこにある、美しいもの。苦味ばかりを残す事件解決の後のラストシーン、一面に広がる天使の羽と、独りじゃない人たちの繋がり。たとえそれが何も解決できないとしても、それに友情と言う名を与えることを不器用なニートたちは拒んだとしても、こんな世界にも救われる何かはあるのだと思えるような、素敵な場面だったと思います。