桜色の春をこえて / 直井章

桜色の春をこえて (電撃文庫)

桜色の春をこえて (電撃文庫)

高校入学と共に新しい生活を始めようとしたところに、不動産トラブルから家を失った少女。その少女に手を差し伸べたのは、彼女の入るはずだった部屋の隣に住んでいた不良少女で、という感じで始まる物語。
等身大で傷つきやすい二人の少女が、ぶつかったり悩んだりしながらも不器用に友情を育んで、前に進んで行こうとするという、ベタだからこそ素敵なお話でした。教師暴行で停学歴あり、一年ダブって同学年、見た目は不良で口を開けば暴言という有住に振り回される杏花。ただ、そんな有住の不器用さと、お節介な優しさに触れて、みたいな展開はやっぱり良いものです。
家庭環境に問題のあった二人の抱えた繊細なところが原因でケンカもして、母親との関係にそれぞれ悩んで、これまでに負ってきた傷は決して小さくはなくて。これはどちらかがどちらかを救うような話ではなくて、お互いに問題を抱えている二人はただの高校生でちっとも完璧な人間なんかじゃありません。でも、二人が出会えたから、ぶつかりながらでも一緒に暮らしたから、だからこそ踏み出せた一歩があって、繋げた関係があって、それが特別なものになる。
この作品で描かれる二人の関係は、いわゆる百合というほどに近くはなくて、サラっとした距離感のもの。それはそれで物足りなさを感じたりもするのですが、変にこじれない自然体なところがこの作品の魅力でもあるのかなと思います。母親との関係もきちんと精算できたわけではなくて、それでもひとりの女子高生にとっては大切な一歩として描かれているような感じ。そういう飾らないところは、物語としては読んでいて薄味にも感じるのですが、だからこその等身大で素直な二人の物語だったとも思います。
地方都市、坂道、一面の桜並木、自転車に二人乗りの少女。読んでいるとそんな透明感のあるイメージが浮かんでくるような一冊でした。