クズがみるみるそれなりになる「カマタリさん式」モテ入門 / 石川博品

プレミアム・クズな中野太一の元に現れた、未来から来たという少女カマタリさん。彼女は太一のクズを治すためにやってきた、訳では全然なくクズである太一に曽我部三姉妹を攻略させることが目的で、みたいな感じで始まるドラえもん系ラブコメ作品。
自分自身のダメっぷりを脳内シド・ヴィシャスに託してパンクと嘘ぶる太一の清々しいまでのクズっぷりも相当ですが、カマタリさんもさり気なくひとでなしでどうしようこの小説、な感じで始まる序盤。曽我部3姉妹に近づくも当然のごとく失敗して、「セーブポイント」に「デデーン アウトー」と戻ってくる日々が繰り返されます。
ただ、そこからがこの作品の真骨頂。タイムトラベルなんて超技術を使いながらも、がんばるところは髪型に服装、そして相手に話しかける勇気と接する態度という超王道。クズだった太一が、自分自身の心を守るために張っていた防壁を解いて、自分の気持に素直になるに従って、性根の真っ直ぐさみたいなものが見えてきて。曽我部三姉妹の方、特にメインになる笑詩も美人なのにどこか不器用さがあって、そんな高校生らしい難しさを、少しずつ残りこえていくように。
という感じに、この設定で始まった物語が、気がつけばあら不思議王道まっしぐらにラブコメをしているのでした。姉妹感、特に笑詩と入香との間の感情の行き違いも、彼ら彼女らの見せる青少年らしい不完全さも、そんな彼らが前に進むために取る行動も、超設定や美少女がたくさん出てきても芯のところにはきっちりとリアルな感触があり続けます。このバランスは非常に上手いなと思いました。そして文章、特に会話のセンスは素晴らしいものが。流れるようにろくでもなく、けれど面白いというのは才能だと思います。
ラストに向かうに連れて、「それなり」になる太一と、曽我部三姉妹と、カマタリさんとの間にある感情と関係の甘酸っぱさはとてもラブな感じ。馬鹿馬鹿しくひどい話かと思ったら、最後きっちり切なさまであって、さすがの完成度な一冊でした。ただ、すごく上手いし面白いのも分かるのに、個人的に好みではないという悔しい感じが……。作品的にそうあるべきなのだとは思いますし、そこは微妙なラインではあるのですが、高校生らしい品のなさが私には読んでいてちょっと辛かったです。