禁書庫の六使徒 / 栗原ちひろ

禁書庫の六使徒 (f-Clan文庫)

禁書庫の六使徒 (f-Clan文庫)

深淵の六使徒が乗り出した百塔街に開いた大穴の調査。その原因について調べるうちに浮かび上がった魔界の紳士から、物語はハナの抱えた事情に繋がっていって。
なんだかんだで六使徒を続けているアレシュたちの直面した魔界の紳士グリフィスを巡る事件は、彼が婚約者であるハナを連れ戻したことから、アレシュにとってはただの街の危機では無くなって。お互いに不干渉を守ってただ屋敷のメイドとしていてもらえれば良いというハナへのアレシュの接し方は、関わらないことで深入りしないということとイコールであって、けれど彼女は如何に大事な存在であったのかに、彼は失ってからはじめて気がつく。百塔街という絶望の街で、変人と言うよりもいっそ人でなしに近いようなキャラクターたちが織りなす物語なのに、ここにある恋の物語はどこまでも純真で、そのギャップがなんだか不思議な感じです。
自らの美意識に忠実で面倒事は嫌いそうなアレシュというキャラクターが、調香の仕事を始めたことにも、六使徒を続けていることにも驚いたのですが、何より驚いたのはハナに対する態度の変化。深入りをしないからこそいつだって気楽な立場でいられた彼が、受け止めて背負うと覚悟を決めるのは、ちょっと予想外で、彼にとって彼女がそこまで大きな存在だったのかと思いました。
そしてハナの物語としても良かったです。幼くとも(?)少女は少女で、自分がグリフィスに必要とされていること、グリフィスから真摯に愛されていることに心を掴まれていて、それでもグリフィスの愛の形は受け入れられなくて、けれど助けも求められない。そんな状況の彼女が、ある特別な感情をもっていたアレシュと一緒にいて何を感じていたのか、一線を引き続ける彼をどう思っていたのか。いろいろなものに縛られた彼女の、漏れだすような感情の形は理屈では捉え切れないような何かで、ぐっとくるものがあって、そして可愛いなあと思いました。
そんなハナとアレシュとグリフィスの物語は、言ってしまえば略奪愛のようなもので、愛の形をめぐるドロっとしたものではあって、でも意外なアレシュの純情さと真面目すぎるくらいのハナの健気さがあって、不思議と後味の悪いものにはなっていませんでした。一風変わった装飾で飾られたようなちょっと風変わりなお話なのに、びっくりするくらいまっすぐな恋物語でもあって、そこがとても良かったです。
そして他のキャラクターたちも何だかんだで一緒にいて、馴れ合いともまた少し違う居心地の良さが。ミランはまあ置いておいて、カルラとルドヴィークのにじみ出る老後の楽しみ感とか、何がどうしたか愛すべき馬鹿キャラになったクレメンテの活躍とか、そういったところも面白かったです。