千年万年りんごの子 1 / 田中相

千年万年りんごの子(1) (KCx)

千年万年りんごの子(1) (KCx)

雪深いりんごの国に婿入りした青年雪之丞。捨て子だったから、周りと問題を起こさないようにと生きていた彼を、そんな田舎の大家族暮らしの環境と妻になった朝日の裏表のない性格が変えていって……という話かと思いきや中盤からの急展開。土地に伝わる信仰とタブー、それを破ってしまった時に彼らの周りで不思議な事が起き始めて、という話。
深々と雪の降り積もる村、狭い世界、その中心にあるのはりんごの木。生まれた時から都会暮らしをしていると分からない、土地に生きるということ、そこに家があるということ、そしてその中心にりんごを育て、りんごを糧にして、りんごと共に生きる暮らしがあるということが読んでいてすごく伝わってきて、この村に息づいているものを確かにしてくれるような感覚がありました。だからこそ、この村に伝わる土着信仰が、かつて行われていた行事が、そしてどこか排他的な世界が、ただどこか遠くの出来事ではない、確かな手触りのあるものとして感じられて、それだけにその禁忌に抗おうとする雪之丞の決意が重く感じるのでした。
どこか淡々とした空気ながら、気を抜くと吸い込まれそうになるような、不思議な力のある作品。これからの話が、本当に楽しみです。