ふわふわの泉 / 野尻抱介

ふわふわの泉 (ハヤカワ文庫JA)

ふわふわの泉 (ハヤカワ文庫JA)

ありうるかもしれない、こんな未来の物語。
女子高生の泉が後輩の昶と共に化学部の実験中に偶然発見した新素材「ふわふわ」。ダイヤモンドよりも硬くて空気よりも軽い、窒素と炭素からなるその物質が見つかったことで、泉と人類がたどることになる未来を一気に駆け抜けるような一冊。
とにかく細かいこともストーリーの枝葉にも構わず、とにかく前を向いて走り抜けるようなスピード感と膨らんでいくスケール感が素敵。一章で高校生だったのが、二章ではもうふわふわ社の社長として大成していて、その先はもうひたすらスケールが広がって空に巨大建造物が生み出され、そして宇宙へ! 描けばきりがない困難と克服の物語にも、人間関係だとか恋愛関係にも構うことなく一直線に宇宙を目指して走り抜ける様子は、本当にテクノロジーを描いた作品なのだなあと感じます。
ただ、ふわふわという新素材とその活かされ方は私のイメージが追いつかないところも多々あって、そういう意味では同じような構成でニコニコ動画初音ミクを題材にしていた「南極点のピアピア動画」の方が好みかなとも。
ただ軽やかにハードルを超えていくだけでなく最後に人類の限界を突きつけておいて、ある意味脱力してしまうような、そんな限界どうでもいいことなんだよと言われているような気持ちになるラストシーン。テクノロジーというものに対して夢とも愛情とも少し違う、どこか危うさすら感じる無条件の信頼のようなものを感じさせる一冊だったと思います。