星海社カレンダー小説 2012 上・下

星海社カレンダー小説2012(上) (星海社FICTIONS)

星海社カレンダー小説2012(上) (星海社FICTIONS)

星海社カレンダー小説2012(下) (星海社FICTIONS)

星海社カレンダー小説2012(下) (星海社FICTIONS)

読み終わって好きとか嫌いとか面白いとか詰まらないとか、そういう何もかもを差し置いて「ああ、これは星海社だ」という感想が一番にくる短編集。星海社というか、ファウストからの流れというか、要するに太田克史を感じるというか。まさに星海社入門編という趣の一冊でした。
そんな訳で9人の作家による、1年の記念日をテーマにした短編集。中では紅玉いづき青春離婚」、十文字青「私の猫」、佐藤友哉「星の海にむけての夜想曲」、泉和良「下界のヒカリ」が好みでした。
青春離婚」はたまたま苗字が同じで周りから夫婦と呼ばれる高校生男女の、微妙な関係と感情を描いたお話。初めは周囲のからかいで、でもそれをするっと受け流す男の子と一緒にいる時間が心地よくて、「夫婦」という関係にどこか甘えていて。この周りからつくられた関係と、その中で重ねていく時間の居心地の良さがなんとも魅力的で、でもこれは長く続くものじゃないというのも読んでいて分かるので女の子の気持ちもよく分かる、静かでゆらっとした、素敵な青春の物語でした。すごく良かったです。
「私の猫」は定職につかずに小説家を目指す男と彼と付き合う女と、彼の飼う猫の物語。最終的にデビューしたのがライトノベルの賞だったり、でもライトノベルというジャンルの中では浮いていたりと、作者の私小説的な色合いの濃い作品でした。男のどうしようもないダメさ加減とか、その男と一緒にいる女の愛情と嫌悪と執着が引力を作っている感じとか、その時間の流れの中でずっといる猫とか、ダウナーで湿っぽいけどベタベタはしない空気感が絶妙な感じ。前向き、なような不思議な余韻を残すラストも良かったです。
「星の海にむけての夜想曲」は単行本版も読みましたが、個人的にはこの一編だけで読んだほうが、どこか哀しいけれどひたすらに綺麗で美しい物語になっていて好きかなと。
「下界のヒカリ」は屋根裏に住み着いた恐らくは貧乏神的な存在が、その家で恵まれない不憫な暮らしをしながらも健気で強く生きる女の子を覗いているお話。大晦日というテーマにぴったりな、新年に向けてのストレートな前向きさが、ちょっと捻れた描かれ方で書かれていてすごく好きです。まっすぐに生きてれば神様が見ていてくれるという話を少し捻ったような感じ、というか。