大日本サムライガール 1 / 至道流星

大日本サムライガール 1 (星海社FICTIONS)

大日本サムライガール 1 (星海社FICTIONS)

設定があまりにも勝ちすぎていてこれで面白くない訳がないと思って、読み終えてやっぱり面白かったという一冊でした。
真正なる右翼は日本にただ一人自分であると防衛省前で拡声器片手に演説をする美少女、神楽日毬16歳。日本の頂点に立って国を変えることを目標とする彼女に、政治家として大成するための近道としてアイドルになることを薦める大手広告代理店蒼通の社員織葉颯斗。やがて、颯斗は父親とのいざこざから蒼通をやめ、日毬を立てて芸能プロダクション「ひまりプロダクション」を創設する、というお話。
マスメディアに政治に経済という作者の得意分野に、エキセントリックで純粋な右翼美少女、そして流行のアイドルしかもプロデュースものという、今の空気を掴んだ全部載せ設定がバランスを崩すことなく綺麗にハマって、物語として非常にしっかりしている上に強烈なキャッチーさがあるので、これはもはや思いついた時点で勝っている感じ。作者の初期作品と比べると文章もすごく読みやすくなっていて、キャラクター描写の不自然さも感じなくなっているので隙のない感じです。
民主主義の社会で票を集める=有名になるためのアイドル活動、芸能界の裏と表、依然として強力なテレビの影響力とマスメディアの必然としてのレベルの低さ、みたいなものに変なリアリティを感じさせつつ、そこに挑んでいく二人の姿が良い感じ。偏った思想も国を想えばこそであり、決して電波少女な訳ではない日毬の芯の強さと垣間見せる歳相応の弱さ、それを支える颯斗みたいな構図は王道で良いものでした。颯斗の方もただの有能な存在というだけでなく、巨大企業の直系として育ちながら父親への反発があったりという背景があって、こちらの物語としても今後面白くなりそうな感じです。
そしてストーリー的には、普通のアイドルとして売りだそうとしていた日毬が、ある出来事から素の状態、つまり右翼美少女アイドルとして世の中で話題になってからが真骨頂。賛否両論の中一躍時の人となり、大手プロダクションに目をつけられ、それを袖にしたことで逆に潰しにかかられてみたいな急上昇と急下降を繰り返すジェットコースター展開から、まさかのクライマックス。そんな上手くいくわけがなくそんなものはまかり通らないとは分かっていても、ここまで読んできた日毬というキャラクターだからこそ、その道を選んだ理由が分かって、そして何より格好良く見えるこのシーンのカタルシスは素晴らしかったです。腐った既得権者を真正面から打ち据える、というのがいかにも彼女らしいなと。
日毬の過激な思想はどこへ二人をつれていくのか、ひまりプロダクションは今後どうなるのか、ちょっとだけ登場したキャラクターにもまだ出番はありそうで色々と目が離せなくなりそうな今後もありますし、二ヶ月連続刊行の2巻も楽しみにしていたいと思います。