- 作者: 藤原祐,山根真人
- 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2012/09/07
- メディア: 文庫
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血の繋がりに裏打ちされたものでもない、それでも保証された家族という関係。他人である七人の家族は当たり前に一緒にいて、お互いのことを思って、一つの輪を作る。この間でもその関係はどこまでもファンタジーで、理想は理想であって、だからこそ擬似家族でしか成立しないような、けれどどうしても憧れてしまうものがあるような、そんな関係でした。
高遠と礼兎の育った施設の話、子供の頃から続く二人の関係の話、彼らを育てた人の話。そして、礼兎に惚れてこの家族に分け入ろうとした礼兎の同僚の話。それを通じて見えてくるのは、倉須の兄弟たちを結びつきのある種排他的なまでの強さであって、その倉須家で長男長女として親代わり的な立ち位置を占める二人の関係の奇妙さであって。礼兎に言い寄った浅川先生は度を超えて無神経ではあったものの、多分至極一般的でまっとうな感覚の持ち主だとも思うのです。であれば、歪んでいるのは、孤立しているのはどちらであるのかと。
だから、互いを結ぶものが強すぎるあまりに幸せに歪んでいるようなこの家族は決してまともではなく、それは作中で本人たちによっても触れられていて、けれどこの作品を読む限りここにあるのは理想的な関係に思えて。
損得の計算も、本能としての情愛も、なにもないはずのところに、お互いを支えるわけではなくて、まるでお互いをもって一つであるかのように生まれる関係性。何を信じられるのかもわからないこの時代で、そこにある安心に感じるのはやっぱり憧れなんじゃないかと、そんなことを思います。