ドラフィル! 2 竜ヶ坂商店街オーケストラの革命 / 美奈川護

しっかりと完結していたところからのまさかの続編で、どんな話になろのだろうと思いながら読んで、なるほどそこの話があったかと思った一冊でした。
という訳で、今回は響介と父親の話。響介がヴァイオリンを続けることに見限った父。そんな父からの「お前にこれ以上、ヴァイオリンを続ける価値はない」の言葉に動揺が隠せない響介。冷徹で無理を強いてきて突然見捨てたような父親、それをどんなに嫌っていても父親であることには変わりない。だからこそ響介はその言葉を一笑に付すこともできず、向き合うことを余儀なくされて。そしてそこから明らかになる、あるヴァイオリンの存在。それが七緒の母親でもある世界的ヴァイオリニストと藤間家を繋ぐ糸にもなり、父親の抱えてきたものを、それに対峙する響介の姿を浮き上がらせていきます。
楽器をやったこともなく、ましてやクラシックは全然門外漢な私でも、このステージの上に何かがあって、だからこそクライマックスのシーンでそこに集約される想いと音が聞こえてくるような気持ちになれるのかなと思います。己のヴァイオリニストとしてのすべてをかけて挑んだ「ラ・カンパネラ」、それを指揮した七緒、そしてオーケストラの職匠歌人たち、持ち主を選んだヴァイオリン。やっぱりこのシリーズの演奏シーンは素晴らしいなと思いました。
ストーリーとしては、例によって七緒と響介が首を突っ込んだ幸と母親の物語があって、そして響介と父親の物語が来るという構成が良かったのですが、ただやっぱりこの話は挑むのは響介一人であって、そこは七緒たちの物語に響介がしっかり入ってきてた前作と比べると弱いかなとも。そういう意味で、これは決して蛇足な話ではありませんが、それでも前作に対してプラスαな感じの話なのかなとは感じました。
あとは、前作の話を受けてだろう七緒と響介の距離感の縮まり方が良かったです。二人の距離感というか、家に呼び出したりおぶることを当たり前に許したりする、七緒の方の響介への心理ハードルの下がり方が、どれだけの信頼を彼が得たのだろうと思わせるに十分で。だからこそ七緒が響介に向けるのは絶対の信頼であり、距離感を保った上での全力の支援や叱咤だったのだろうなと思います。しかしこの二人、友人というにも恋人というのも何か違うなと思っていたら、作中で姉弟疑惑が出てなるほどと膝を打ちました。なんというか、まさしくそういう関係の二人だなあと。