下ネタという概念が存在しない退屈な世界 / 赤城大空

下ネタという概念が存在しない退屈な世界 (ガガガ文庫)

下ネタという概念が存在しない退屈な世界 (ガガガ文庫)

あまりに衝撃的な表紙イラスト、登場した瞬間強烈な印象を残すキャラクター、そして止めどなく流れだすような下ネタの奔流、けれど予想外にしっかりとしたストーリー。公序良俗の名のもとに、性的なものが駆逐されたディストピアを描いた物語は、単なる出オチではない面白さと勢いを感じさせてくれる一冊でした。
とはいえ、下ネタや微エロ耐性がない人は手に取らないほうが懸命かな、とは思います。
そんな訳で、性的なものを悪として駆逐した社会の中、その中でも風紀優良な学校に入学した主人公狸吉が、駅である少女に出会うところから物語は始まります。コートの下は真っ裸、頭には女性物の下着、そして叫んだのは禁じられた言葉「お●んぽおおおおおおおおおおぉ!!」。その下ネタテロリスト「雪原の青」は、実は狸吉の入学する学校の生徒である華城綾女で、その性知識を買われて彼女に脅迫された狸吉はテロ組織SOXを結成し……とここまで書いて頭痛がしてきますが、本編はこんなもんじゃない下ネタの奔流。よくもまあこんなにすらすらとあらゆる角度から出てくるわと感心するような下ネタ会話の応酬が、気がつけば楽しくなってくるこの不思議な感じ。
そんな下ネタまみれでも案外嫌らしさがないのは、からっとしている作風もありますが、それ以上にここで描かれたディストピアが、今よりも異様に厳しい世界であり、綾女の望む世界が今の倫理観に合っているからかなとは思います。実際のところ綾女自体は割と身持ちの硬そうな子で、どちらかと言うと純粋な感じさえするので。だから読者はこの綺麗な世界を異常に感じて、主人公たちのやっていることを普通だと思えるのかなと。性に対する倫理観なんてものは時代でも土地でも全然違っている訳ですし、ここで綾女が貞操観念とは無縁なキャラだったりするともっとアバンギャルドな作品になっていたかとは思いますが、そうするとラノベレーベルで出版できなくなりかねませんし、これはエンターテイメントとしてはすごく巧いバランス感覚だと思いました。
そういう倫理を強制しても、青少年は青少年で興味が無い訳がなく、しかも間違った知識どころか何が卑猥なのかもわからない程度の知識しか与えられていなくて、けれど愛は尊いと叫んだりしているから大変、というのもお約束的。ただ、キャラクターの暴走力があらぬ方向に凄まじく、それを助長しようとするSOXの活動と相まってこれがもう大変なことに。ハエの交尾の実況シーンとかもはや狂気を感じました。しかもそれを全力でイラストにしたイラストレーターがいい仕事をしすぎていてやばい。そしてそのテンションが最後まで崩れずに駆け抜けたというか、正しい知識を与えずに抑制したら変態が増えましたみたいになっていて凄まじかったです。某キャラの豹変からレイプ未遂までの流れがホラーすぎます。
あとは、ディストピア社会でのレジスタンス的活動という面でも面白かったなと。どちらかと言えば仲間の立場である不破と最後まで明示的に仲間にはならないで、お互いの利益と信念のもと奇しくも利用し合うような共同戦線を張ったりするのがとてもツボでした。皆で力を合わせたわけではなく、皆の欲望が同じ方向を向いた結果のクライマックスのカタルシスが良かったです。
そんな感じで最後まで減速せずに駆け抜けて大変楽しめた物語ですが、一矢報いたものの状況は悪化しているし、まだいろいろ未解決の問題も残っているというところ。豹変した某人をどうにかし無くてはならないですし、若干怪しい疑惑が出始めたゴリ先輩もいますし、2巻も楽しみに待っていたいと思います。面白かった!