はたらく魔王さま! 7 / 和ケ原聡司

はたらく魔王さま!  7 (電撃文庫)

はたらく魔王さま! 7 (電撃文庫)

短篇集となる7巻、どれもこのシリーズらしい魅力に溢れていて良かったのですが、中でもちーちゃんメインの「はたらく女子高生 -a few days ago-」が非常に素晴らしかったです。
ちーちゃんが進路に悩んで友だちの話を聞いてマグロナルドでバイトを始める前日譚で、真奥とちーちゃんの出会いの話でもある話。迷っていたちーちゃんが木崎に出会い、真奥に出会い、働くことの意味を考えていくところがメインテーマになっていて、この仕事への向き合い方が、辛いところばかりを切り取るのでもなくて、でも無責任に大きな夢ばかりを語るわけでもなくて、とても誠実だなあと感じました。読んでいて楽しそうでバイトをしたくなる話、だけれど一歩一歩自分の道を進んでいくしか無いという当たり前な話でもあって、将来の進路という今時夢を描きにくいものに対して、答えにはならなくても、これ以上に何かを語ることはできないという話だったなと。
そしてそのちーちゃんの掴んだものがこの先の話の彼女の行動にもしっかりつながっているように感じられるのが良かったです。そしてそれだけではなく、ちーちゃんの惚れた真奥の姿を外から描いているところもあり、ちーちゃんと同じ弓道部の三人組のそれぞれの目指す進路とか、人間関係だとかもあったり。特に義弥なんて裏主人公といえるくらいに彼自身の話も少ない描写でしっかりと描かれていて、本当に良い短編だったと思います。前々から新人離れして上手な作者だと思ってはいましたが、出来が良くてこれはちょっとびっくり。
それからアラス・ラムスのために恵美と真奥が一緒に買い物に出かける「魔王と勇者、お布団を買いに」も良かったです。最近は夫婦にしか見えないところの会った二人が、おもいっきり夫婦っぽいことをやっていて、仲良し家族な空気を持ちつつ、お互い敵同士なのは変わらないみたいな話。ただもう、ここまでやられたら二人で仲良くこっちの世界で暮らせばいいじゃんと思わざるをえない休日の子供連れ郊外型ショッピングモールへの買い物風景が微笑ましかったです。ただ、その関係はアラス・ラムスという存在を楔にして成り立っていて、だからこそずっと続くのではないのだというこの先への一抹の不安みたいなものを匂わせるのも、今この瞬間の特別さをいっそう鮮やかなものにしていて良かったなあと。
その他の二本の話も、漆原が悪徳商法に騙されてその対応に走り回ったり、真奥が捨て猫を拾って上が写って大変だったりと、魔王のくせに実に庶民らしくせせこましく、けれど賑やかで温かな暮らしぶりが伺える短篇集でした。シリーズ的にはこの先色々大変なことが待ち受けていそうな所ではありますが、だからこそここでこうやって彼ら彼女らの暮らしぶりを読めたことが良かったなと。面白かったです!