明日、ボクは死ぬ。キミは生き返る。 / 藤まる

明日、ボクは死ぬ。キミは生き返る。 (電撃文庫)

明日、ボクは死ぬ。キミは生き返る。 (電撃文庫)

言ってみればボーイミーツガールでラブコメな王道作品なのですが、その設定に大きく捻りがあって面白い一冊でした。
というのも、ヒロインは冒頭で事故で死んで、主人公と体を共有する形に。しかもその共有が一日ごとの入れ替わりだから、主人公から見れば一日飛びに記憶がなくて、しかもヒロインとのやり取りはノートを通じてという形になるからさあ大変、みたいな感じ。
主人公の秋月の体でいきいきと暴れまわるヒロインの光にひたすら振り回されるばかりの秋月の日々は、けれど確実に彼を変えていって。いかにも不良な外見と実はヘタレな内面がアンマッチして周りからはさんざん恐れられ孤立していた秋月の、周りとの関係を変えていったのは彼の体を使って動いていた光。外から見れば同じ人物、けれどノート越しに二人で一つな二人の関係が動いていくのが、秋月の一人称の砕けた文体で描かれていって、テンポもよく面白いです。特に細切れにネタを挟んでくる文章は思わず笑ってしまうところもあって、単純に読んでいて楽しい感じ。
直接向き合っているのではなく、一人はもう死んだ存在で、ただ今同じ体を共有しているという形だから行き違う気持ち。ノートの上の文字でしか追えないから、秋月には掴めない光の思い。それでも、いつしか惹かれてしまったから、秋月は全力で光のため動き出す。トリッキーな設定を、そんな王道を行く気持ちよさで描いてくれた作品だったと思います。ただ、後半のシリアス展開からはちょっとごちゃごちゃとして、しかも脱力っぽいオチになっていたのがどうかとも。最後の最後は良かったですが!
ひたすら不憫だったけどしたたかさも見せてくれた、光によって秋月に惚れるに至った霞や、もはやよくあると言ってもいいツンデレブラコン妹キャラだと思わせておいて大きくあさっての方向へ突き抜けていった雪瑚、それに不良でヘタレに勢い○だけど実は繊細? な主役の二人も含めてキャラクターも楽しく動いている感じがあって好印象。特に雪瑚の突き抜け具合はちょっと普通じゃなくて面白かったです。割と下世話な話もポンポンと投げ込んでくるのですが、あっけらかんと描くので嫌な感じはしないのも良かったかと。
そんな感じにぐいぐい読めてシンプルに楽しかった作品。挿絵も良くて、さすが電撃の金賞と思うような一冊でした。面白かった!