好きと嫌いのあいだにシャンプーを置く / 瀬那和章

神戸を舞台に一緒に暮らす三姉妹それぞれの恋を描いた三篇の物語。少し切なくて、けれどそれ以上に優しく澄んでいる、とても素敵な物語でした。「under」の印象が強い作者だったので、こういう作品をこんなふうに書けるのだとちょっとびっくり。
インテリアコーディネーターで叶わない恋ばかりしている長女、かっこいい勝手な男たちに振り回され続けてきた次女、恋愛なんて縁が無さそうだったイラストレイターの三女。同じ時間軸で三度語られる、三者三様の恋の物語。それぞれの問題でありながら、少しづつ絡みあったそれはまた、三人で暮らす姉妹の繋がりも浮かび上がらせていって。
電撃文庫の恋よりももっと年齢の高い大人の恋でありながら、描かれるものはどこまでも優しく。傷つくことも、シビアな現実もありながらも、それをもっと大きなもので包み込んで溶かしていくような、そんな恋の物語。七年前に告白された後輩を傍目から見たらキープしているようにも見えて、どこかお互いに囚われているような長女の話も、勝手なことばかりして自分のことなんてどうでもいいと思ってるような優しくない男との恋に悩む次女の話も、ゆっくりと手を伸ばすように恋と向き合う引きこもり癖のある三女の話も、少しのずれが埋まっていくような、最後に幸せを感じられるような、そんなお話でした。
そして三人の恋を前に向かわせるのは姉妹の存在でもあって。一番近くでずっと一緒にいる存在。コンプレックスもある、秘密もある、分かり合えないことはたくさんある。それでも、何から何まで合う訳ではなくても、一緒にいるから、支えることができる、そんな姉妹の絆がとても良かったです。
神戸という上品なイメージがある街によく合う、透明感と温かさのある大人の恋の物語。それはどこまでもファンタジーであっても、思わずこんな優しさを信じてみたくなるような、素敵な作品でした。すごく良かったです。