なにかのご縁 ゆかりくん、白いうさぎと縁を見る / 野崎まど

あらすじにハートウォーミング・ストーリーと書いてあるわけですよ。
でも作者は野崎まどなわけですよ。
よく訓練された野崎まど読者なら身構えて当然じゃないですか。最原最早に踊らされてきた人間としたら、西院さんのような天才タイプのキャラが出てきたら、これはもう何かあるに違いないと決めてかかるのも仕方ないじゃないですか。
あれ、おかしいな、なんで私2話の終わりでプリンセス・パールちゃんに泣きそうになってるんだろう……。
というような感じの野崎まど流ハートフルストーリー。お人好しの青年が縁の神様だというウサギを見つけて、切られてしまった縁を結んでもらうためにウサギの手伝いをすることになるお話。
当然人の縁に関わる物語ですから、人と人の繋がりを描いたものになるわけで、収められた4話は、片想いの話、友情の話、家族の話、そして死人への想いの話となっています。それがまたそれぞれに奇をてらうことのない真っ直ぐないい話で、しかも語り方が非常に上手いのですっかりやられてしまうのです。特に2話の見果てぬ夢だった自作自転車パールちゃん号を、故郷に帰る友人のために皆で作る話とか、ど真ん中ストレート豪速球で、青春! 友情! 感動! を運んできてくれてもう。
どの話にも人の縁に対しての無条件なまでの信頼が見えるというか、何もかも全てが出来過ぎなくらいなのですが、ここには物語なんだからこのくらい出来過ぎてなきゃ! と思わせてくれるだけの魅力があります。ただまあ、この信頼をことごとく逆手に取ることもできるからこそのいつもの野崎まど作品でもある訳で、そう考えると野崎まどの表裏一体な部分が見えるような気も。
ウサギさんの妙に人間臭いキャラクター、主人公であるゆかりくんのお人好しっぷりに、完璧超人に見えた西院さんが抱えた弱さといったキャラクターもちょっとくせがあって、でも嫌味なく魅力的で、大真面目な顔をしてちょっと変なことを言う地の文も健在。読んでいるだけで吹き出しそうになるこの文章は野崎まど劇場を経た今、野崎まどの十八番なんだろうと思うようにもなりました。
そんな感じで「ハート・ウォーミングストーリー」の看板に偽り無しの一冊。とても面白かったです。野崎まど未読者にもおすすめしたい一冊でした。
まだゆかりくんの縁は結ばれていないのだから、これは当然続きが出ることを期待してもいいんですよね……?