ドラフィル! 3 竜ヶ坂商店街オーケストラの凱旋 / 美奈川護

世界は、神と音楽で出来ている。

3巻目にして完結。最後に語られるのは、七緒とゆかりの姉妹、そして七緒と仁美という母娘の関係に決着をつける物語。
こじれてしまった親代わりの先生との関係を取り戻せないままに先生は痴呆症を患って、それでも最後に先生の前でチェロを弾く、ドラフィルのチェリスト駒沢の物語である第一楽章、片真面目な警察官である不器用すぎる純情を描いた第二楽章もそれぞれとても良い話で、特に第一楽章のラストはグッと来るものがあったのですが、それにしてもこの巻のメインとなるのはその後の2編。
音楽に囚われた者。舞台に立ち続け、演奏をし続ける者と、その道を目指しながらも音楽を諦めた敗者。正しさとか、賢さとか、もうそういうものの話ではなくて、それがとびきり上等なオケだとか、商店街のアマチュアオケだとかそういうことでもなくて、ただ音楽を続けること。そうでしかありえないその舞台で闘い続けること。その在り方を、今再び七緒と姉であるゆかりが問われるような2編。
引きずってきた過去も、関係も、楽器が繋いできた奇妙な呪いも、その全てが舞台上で問われて、そこに答えが出る。ゆかりは帰ってきた。ドラフィルのソリストとして。七緒は世界は音楽と神で出来ていると言い、生きることは奏でることだと言い、そして指揮棒を振り続ける。たとえそこに何があったとしても。それはプラスとかマイナスとか、良いとか悪いとかを超えて、ああ、この人たちはそうやって音を奏でていくのだなあと改めて思わされるような何かでした。そして、それだけが音楽ではないのだろうけれど、音楽家としての彼女たちはとても眩しいなと。
このシリーズが最後に残したものに決着をつけるための物語は、終わらせるためのものであるからか無理な展開を感じる部分もあったのですが、それでもこれは語られるべき物語であったのだろうなと思います。素敵なシリーズでした。