- 作者: 和ヶ原聡司,029
- 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2013/08/10
- メディア: 文庫
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現在のエンテ・イスラを巡る状況、魔王軍残党の行動やオルバの企ての背後に見える天界の影。そしてわかりやすく担ぎあげられる恵美と芦屋という大きな流れは相変わらず全体は見通せないものの、少しづつ天界の考えてることが見えてきた感じ。とは言っても相変わらず状況が込み入っているので少しごちゃごちゃとして状況と流れの説明に分量が割かれている感じも。良くも悪くもシンプルにコメディをしていた頃からすると遠くに来たものです。
それにしても、イェソドが砕かれた意味と天祢の正体が示唆されて話のスケール的にも来るところまで来たなと。そしてその次元であの強さを見せるちーちゃんのカリスマっぷりが止まらない。
そして後半で鈴乃に語られる真奥の告悔はこの作品の根幹に関わる重要なシーン。真奥があんな人物であるならば、何故魔王軍はエンテ・イスラを征服しようとしたのか。この作品のギャップの面白さの軸でもあったその繋がらなさは、けれど何も繋がっていないなんてことはなくて、ただ王は王としてあっただけのことで。読者である私自身が、それでも「魔王」という言葉のイメージに囚われていたんだなあと思い知らされるようなそれを、真正面から受け止めてしまう今の鈴乃がいて、でも、だからこそ恵美に対しての態度を頑なにする真奥がいて、この物語はひとつ大きなターニングポイントを超えたのかなと感じました。
そして現代日本の便利さに慣れきってエンテ・イスラでの生活に苦労する恵美は、強すぎる力を持っただけのただの十代の少女でしかないんだなと思う部分が増えてきて。魔王を憎むことで過酷な運命に対して成立してきた彼女自身の基盤を、真奥と接することで、そしてそれよりも大きな企ての渦中でバラバラにされて、尚且つ彼女が勇者であるが故に振り回され続ける。精神的に決して強くない彼女がこれ以上振り回されて壊れてしまう前に、真奥たちの助けが間に合ってほしいと、けれど間に合ったとして、それは彼女にとっていったいどういう救いの形になりえるのかと、そんなことも考えてしまうような一冊でした。