ナイン・ストーリーズ / 佐藤友哉

ナイン・ストーリーズ

ナイン・ストーリーズ

ファウストで所々は読んでいたけれどいつかまとめて読みたいなと思って早七年か八年。これはもう出版されないんじゃないか、そもそも九篇揃うこともないんじゃないかと思いつつあったところで、ついにお目にかかることができた鏡家ナイン・ストーリーズ
鏡家サーガは私にとって特別な小説で、どちらかと言うとたぶん特別だった小説で、サリンジャーだからどうこうというのでもなく(未読ですし)、兎にも角にもフリッカー式を読んだ時のインパクトがものすごかったことを覚えています。
なんだこれ、凄い、天才だと思って、それでこれは私の小説だと思ったそんなシリーズ。私のために書かれたというよりも、もう一歩踏み外して、私がもし何か書いたらこうなってたくらいの入り込み方をしていたのが、ちょうど二十歳前後の頃。
それだからなのか今読むと、当時ほどの何か特別なものではなくて、それは当然それだけ私が年をとったということでもあるのですが、それ以上にあの時の私が出会った鏡家サーガというものが、なにか特別以上に特別なものであったのだろうと思うのです。
という訳でナイン・ストーリーズ。当時のように陶酔めいた熱狂は無く読んでいて、ストーリーだけ追いかければ何か面白いものだというわけでもないように思えて、それでも、やっぱり好きだなあとは思う一冊でした。
鏡家の七兄弟たちは、壊れているというのは多分間違いなくて。普通に考えて、普通じゃないというのも事実であって。けれど、読んでいるとなんだかとてもまともで真っ当で真っ直ぐだと感じることがあります。踏み外しちゃいけない一線を軽々しく踏み越えるのに、ある面ではあまりにも真っ当すぎるくらいに真っ当。そしてそれは、滅茶苦茶でぐちゃぐちゃな世界の中で、どこまでも純粋にあるが故の結果なのかもしれないと思います。
そのぶっ壊れるくらいのピュアさを、果たして希望と呼んでいいのかはわかりませんが、それでも私はこの兄弟たちの物語が好きだなあと、改めて確認するように思うのでした。