魔法少女まどか☆マギカ 【新編】叛逆の物語

あのTV版のラストがあって、じゃあ続編は何かと言ったら本当にこれしかない、ここしかないっていう話でした。そうだよねそれはそうなるよねという。良かったです。


何を書いてもネタバレになるので後は折りたたみで。


TV版のラストはまどかが闘い抜いた魔法少女を救う神さまになる話で、それは一つの確固たる結末であって、この劇場版でもそれをひっくり返すような野暮なことはありません。
でも、TV版では解決しなかったものがあって、それが何かと言えば、一人まどかの記憶を持って、神さまの後の世界に残されたほむらの存在な訳で。
結局、魔獣と戦い続けることになったほむらには約束だけが残されて救済は訪れずに、そもそもほむらがまどかによる救済を望んでいるかどうかも分からない。だって、まどかの選択は究極の自己犠牲であって、まどかを守るためだけに闘ってきたほむらが、それを是とするはずがなくて。
ならば、まどか☆マギカの続編はどんな物語になるのかというと、ほむらの物語であり、彼女が何に叛逆するのかと言えば、まどかの選択であり、それによってもたらされた彼女にとって理不尽な世界にほかならない。


だから、これはそういう映画になったのだと思います。
円環の理さん大出世とか、マミさんの全盛期再びとか、杏さや分大増量とか、キュウべえを襲うブラック企業の恐怖とか、まさかのお菓子の魔女大活躍とか、ファンサービス要素はかなりてんこ盛りになっていて、シャフトの演出や作画もキれすぎていて不安になるくらいなのですが、それでも話としては凄くシンプル。
ほむらが、私のまどかをみんなの神さまになんかさせないと願って、悪魔になる物語。
自己犠牲と救済の神さまであるまどかが創った世界を、人のエゴと愛で描きかえる悪魔となるほむら。きっとこの先も世界は何度でも描き換えられて、神さまと悪魔は決して相容れることはなく、それ故に決して離れることもない。
正直、ほむらの魔女結界が破られた時に、まどかの救済が訪れて、そうしてほむらが幸せに救われて終わるのならば、TV版でやり残したことを終わらせるための憑物落とし的な続編として凄く綺麗に終わったように思いますし、正直見ている間はそうなるのかなと思っていたところもあるのですが。そうであれば、綺麗すぎるくらいに綺麗だったTV版の結末を強化する物語になっていたと思いますが。
けれど、まどかのために何度も何度もループを繰り返して、まどかを失ったあとも決してまどかを忘れること無く、そして魔女にまでなった暁美ほむらという少女が、そんな結末を許すわけがないじゃないですか、という。
ほむらにとってのエクスキューズは、結界の中でのまどかに確かめた彼女の想いから導いたまどかにとって本来あったはずの幸せのかたち。それが本当にまどかの言葉なのかもわからないというのはおいておいても、それを乗り越えてあの決断を下せるまどかの強さはたぶん、尊いはずで。全体的な見方をした時に、まどかの使いとしてやってきたさやか達の語る言葉は正しすぎるくらいに正しくて。
けれど、それで割り切れるのが人間じゃないでしょうという。そんな正しさで納得がいくくらいの想いなら、ほむらはとうの昔に諦めて魔女になっていたでしょうっていう。
それも分かっているから、彼女は悪魔を自称して、世界を敵に回すような振る舞いをする。でも、分かっていたから止まるものではない。正しさと気高さで出来上がった純白の神さまにまとわりついた、黒い泥のような人の人としての感情がほむらであって、それを彼女は「愛」と呼ぶ。そしてキュウべえにはそれがついぞ理解できない。
だから、脚本的にも演出的にも色々な仕掛けがしてあって、一体どこから何をやってくるのだろうと身構えてたあの話の中でさえ、中盤にほむらがついに訪れた真っ白な約束の時に、まどかを捕まえた瞬間、本当にゾクッとするものがありました。そりゃそうだよなあ、そうじゃなくちゃおかしいよなあと、理屈の上に積み上げられた感情が解き放たれるような一瞬。
そしてそこから先は、相容れることのない神さまと悪魔の、二人だけの終わらない物語。


虚淵玄という人は、どこから見ても筋の通った理詰めの話を作る人というイメージが強くて、何をどこから見てもそうとしかならないように積み上げられていく物語を書く人なのだと思っています。だからやっぱりこの物語は感性で突き抜けていくようなタイプの話ではなくて、よくよく見ればその仕掛けは分かりそうな、なるべくしてその結末へと向かっていくパズルのような話だと思います。
それなのに、この物語の結末は、美しい円環の理ではなくて、どろどろとした愛だった。理屈では計算できないはずのその強い感情を、理詰めで編み上げきったというのが、まるでコンピュータが演算の果てに感情に届いたみたいで、何だか凄く強く印象に残る映画でした。それでもやっぱり、そこに行き着くのかと。