サエズリ図書館のワルツさん 2 / 紅玉いづき

サエズリ図書館のワルツさん 2 (星海社FICTIONS)

サエズリ図書館のワルツさん 2 (星海社FICTIONS)

「やりたいこと」だとか「やるべきこと」だとか「天職」だとか、就職活動をすれば多かれ少なかれ誰もが踊らされるそういう言葉。これはそんな、仕事を選ぶということをした時のことを思い出す、本が失われていこうとしている時代に、図書修復家という道を選んだ一人の少女の物語でした。
今回は短編ではなく一冊通して描かれる千鳥さんという子は、物語の始めは弱い女の子のように思えます。就職活動を続けても就職先は見つからず、ハンディキャップを抱えて、自己嫌悪に呑まれそうな。けれど、読み進めていくと彼女はサエズリ図書館での仕事を経て、何がしたいのかを明確に見るようになります。成長したというより、何も変わらないけれど、ただそれが確かになっただけのような変化。
そこにあるのは、強さなのだろうと思います。彼女が目指すのは、図書修復家。本というものが失われていくこの世界の中で、何一つ保証のない茨の道になる、というよりもそもそもどうやって歩みだせばいいのかすらわからないような職業。それを、ほとんどこじ開けるようにして、スタートラインに立った、強い女の子。諦めなかった、妥協しなかった、そして彼女は見つけて、手をかけた。その姿はとても眩しく、少し恨めしく見えました。
たぶんそれは彼女には選ぶことができなかった妥協の道を、それでも必死になって私自身が選んできたということがあるからなのかなと思います。「やりたいこと」とか「夢」だとか、そういうものは忘れて確からしい道に伸ばす手の強さよりも、どんなにハイリスクで形のないものであっても「天命」のようなものへと、確かに想いを向けて進んでいける強さを尊く感じるのは、自分にはできないことを羨む気持ちなんだろうな、と。
そしてこの本の最後に収められた掌編であるサトミさんの話を読むと、これはここにあるべき話だと思うと同時に、これがここにあるというのが優しさなのか、厳しさなのか、捉え方によって変わってくるなあと。
物語としては、本というものに魅入られたようなワルツさんの姿、随一の職人でありながら自分のやってきた仕事自体への意味を見失った降旗先生と、そしてこれから自分の道を見つけるであろう千鳥さんがいて、それぞれの生き方があって、それが交わった時に生まれる人の繋がりにに、未来への意志に、胸を打つものがあって凄く良かったです。
でもやっぱり千鳥さんという子を見ている時に自分自身に跳ね返ってくるものの大きさにやられそうになるというのもまた、この作品の感想になるのかなと。あと、作品自体とは全然関係ないんですが、精神的なあれこれを抱えたまま挑む就職戦線というのが一体どういうものかというのは、色々開けちゃいけない蓋が、こう……。