ベッドサイド・マーダーケース / 佐藤友哉

ベッドサイド・マーダーケース

ベッドサイド・マーダーケース

例えば鏡家サーガの最初の頃だとか、そういうところで読んだユヤタンにあった、言葉にしたら薄まってしまう閉塞感と安っぽさと強烈な切実さみたいなものは、歳を重ねれば自然と失われていくものなのだろうと思っていたし、だから『1000年後に生き残るための青春小説講座』のような作品が生まれるのかなと思っていたのです。
けれどこの小説を読んで、ユヤタンは今もユヤタンで根っこは変わらないし、それを好きな私も変わらないんだろうなあと思った、そんな一冊。
大人になるのがすべての終わりでその先はないかのように描かれていた過去の作品の向こう側、主人公は妻を殺されて、息子を置き去りに逃げ出した男で、これは彼が求めた復讐の物語。ベッドルームで殺される連続妊婦殺人事件から、無差別に人が殺し殺されるジェノサイドまで、描かれる事件は明確に福島以後を意識した父親の物語ではあるのですが、ぶっ飛んで加速していく展開と、妙に倫理的なのに倫理のタガが外れている登場人物、そして謎の少女に、呆気にとられる真相まで、これは佐藤友哉の作品なんだなあと思います。
テーマがそれであったとしても、それを大上段から真面目にどうこうする訳ではなく、というかどうこうするように書かれていることはただ単に斜め上の何かでしか無くて、けれどばかみたいに大真面目で切実なそうなった今を生きる中にある何かみたいなものを感じる一冊。良いユヤタンでした。