映画 赤×ピンク

『赤×ピンク』の映画化と聞いて正直そんなに期待はしていなくて、単館系だしだいたいこんな感じだろう的なイメージはあったのです。結構低めの期待値で。ただ、公開が近づくにつれて桜庭さん本人がTwitterで凄くプッシュをしていて、公式に挙げられた推薦コメントも本当のキャットファイト系の現場にいる人のものが多くて、あれこれはもしかするともしかするのではと思ってたところに舞台挨拶に桜庭さんが登壇すると知って飛んでいきました。
いや、もうね、凄かった。
一体誰にこの映画を薦めるべきなのかちょっといまいち自分の中でも整理しきれなくて、それがなんとも言えない感じになってはいるのですが、でもやっぱり原作はもちろん『推定少女』『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』『少女には向かない職業』あたりの桜庭一樹の少女ものが好きで、格闘技に抵抗がない人であれば騙されたと思ってでも見に行くべき映画だと思うのです。そのくらいマジだった。本気だった。
原作を読んだのはもうだいぶ前の話で、その時はとらえどころのない作品だなあと思った記憶があります。廃校となった校舎で行われる非合法のキャットファイト。そこに身を寄せる少女たちの切実で痛々しい、けれどその中に強さも見えるような内面が描かれていく、高橋しんのイラストも相まってどこか朧気な小説。ただ、やっていることはえげつないファイトクラブであり、そこに色濃く漂うのは暴力と性と金の匂いであることは間違いない。だから、間違いないものを真正面からエンタメとして仕立て上げればこうなる、というのが映画の話。
真夜中のアングラなキャットファイトの現場。性同一性障害で女性恐怖症の少女をめぐる物語。全編通しての派手な格闘アクションシーンの連続、フルヌードから女性同士のベッドシーンまでも一切躊躇することはなく。有り体に言えば体当たりなのでしょうが、監督も女優も向かうべき先をちゃんと分かった上で迷いなく体当たりをしている、だからこれだけのものになったのだと思います。
そして外からの目線としてはガチな立ち技からサブミッションまであり、その一方では泥レスまでこなす格闘シーンは大迫力で、エロいシーンは綺麗でエロくて、そこに嘘を吐かない、逃げられない下衆さがあるからこそ、その中心に立って闘い続けている少女たちの物語に説得力が増すのかなと、そんなふうに思います。ストーリー的にも映画では一発逆転のエンタメ的な盛り上がりを入れてきて、単純にラストのバトルは燃えるし、楽しい。まゆがが立ち上がったシーンもミーコが啖呵切ったところも皐月の真っ直ぐすぎる闘いも、みんなみんなカッコ良かったです。
こんなところで、こんなことをして、そうやって壊れそうな中で生きている。関係性、身を寄せる場所、金網の中の闘い。彼女たちの間に漂う空気から、交される言葉から、網の中の闘いから、そして彼女たちにとっての好きであるということの重さから、子どもたちが生きるために闘っている世界という、桜庭一樹の少女ものに共通するものが突き刺さってくるような素晴らしい青春映画でした。あれだけやって、それでもどこか爽やかなラストで、ああ良かったなあと見終われるのも、また。