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My Humanity / 長谷敏司

My Humanity (ハヤカワ文庫JA)

My Humanity (ハヤカワ文庫JA)

『あなたのための物語』と『BEATLESS』のスピンオフを含む短篇集。これはもう『My Humanity』というタイトルがまさに全てを表しているというか、それ以外の何物でもないという作品でした。
人の脳という部分に切り込むITPや人を超えたものとして存在する超高度AI、人とモノの関係を変えるアンドロイドであるhiEといったSF的な技術が存在する舞台。それの存在は人の有り様を変え、社会の有り様を変え、より効率的で整理された世界を導くように思えるもの。けれど4篇通じて描かれていくのは、そこまで、ある意味極端なほどに振りきれた技術を持った世界で問われる、人が人であるということでした。
『地には豊穣』はITPによって最適化される人と文化的背景というITPを前にした時に効率的ではないもの、『allo, toi, toi』は小児性愛者矯正のために使われるITPと人の好き嫌いというもの、『Hollow Vision』は超高度AIに多くのものがアウトソースされ宇宙に進出した時代のテロリズム、『父たちの時間』はナノマシンの暴走による危機と父親であるということ。技術が進み可能なことが増えて、それは正しさを導き出すように思えて、そこに人がある以上それは決してシンプルなものではなくて、正しさと正しくなさがどこにあるのかわからない極限に直面するようなイメージは、確かに作者の作品に通ずるもので、それが凝縮されたような作品集だと思います。
植え付けられたITPが頭の中の好きと嫌いを整理していく『allo, toi, toi』は再読ですが、複雑化していく好きと嫌いというブラックボックスが目の前に起きていることへのプラスとマイナスに意味を与えて誤謬を産んでいくというのを、逆引きに解体していく様子。そして解体されていく小児性愛の性犯罪者の在り方と彼を取り巻く収容所の環境が、あらすじにも書かれているのですが本当にグロテスクとしか呼べないようなもので、思わず何かとんでもないものを見て、背中がゾワゾワとするようなものがあります。
そして書き下ろしの『父たちの時間』は、放射能対策で作られたナノマシンがそれを餌にコントロールを外れて増えていくという脅威と化す物語。大丈夫だろうと思われていた先端技術が突然恐怖の対象となること、それに対する科学者の反応と民衆の反応、為政者の反応。それはどうしても福島を思い出させるものですが、ただ放射能を糧に育っていき、形を成していくナノマシンは、どちらかというとこれ「ゴジラ」だよねとワクワクしてしまいました。湾岸からね、上陸されたらそれはね。
そして科学者としての姿と父親としての姿。そこで見えるものの違い、蔓延するわからないものへの恐怖。それはやっぱり正しさを計算できなくなるものであり、何がどうしたってそこに確かに存在し続けるものが『My Humanity』なのだろうと思いました。