左巻キ式ラストリゾート / 海猫沢めろん

「あがけ、もがけ、苦しめ、生きろ、貴様はただのくだらない人間だ、それでいい。何の不満がある?」

この本を初めて読んだのは二十歳の頃で、確かユリイカ西尾維新特集で触れられていて興味を持って、それで何件か本屋を回って運よく手に入れたと記憶しています。その頃、私は色々あってちょっと病んでいて、なんかもう死んじゃいたいなと思ったところから、マンガとかアニメとかオタク系の文化に逃げこむことで何とか繋いでいたようなところがあって、だから、この作品を読んだ時は真正面からぶん殴られたみたいな衝撃で。それから約10年。特に社会に出るまでの2、3年の間、私の背中を蹴っ飛ばして生かしてきた作品のひとつはこれだったと、今振り返って思うのです。
メタミステリにしてなるほどメタゼロ年代小説。二次元の楽園にありったけの愛憎を込めて、そこで描かれるのはガラクタの寄せ集めのような美少女たちの世界と、その世界を壊そうとする創造主と、その世界と対峙する私であるユウ。閉ざされた世界である学園の中でユウが解決に乗り出す連続強姦事件、そこに目を背けたくなるようなドラッグ&エログロとぶっ飛んだキャラクターとアイテムに諦念と情動と虚ろさと感傷と理屈と哲学を並べ立てて。
アッパーなんだかダウナーなんだかわからないテンションで駆け抜ける物語はグチャグチャなようで今読んでみれば妙に技巧的で、でもそんなことよりそこにこめられた熱量だとか、切実さみたいなものに、私はやられていたのだと思います。すがったはずの壊れていく楽園は空虚でくだらない愛しきガラクタの集積だなんて最初から分かりきっていて、外の世界になんで希望が持てないのかわからないまま希望が持てなくて、けれどそのままメーターを吹っ切るまでスピードを上げた先に待っているこの結末、そして答え。
たぶん、それだけを取り出せばチープで安っぽい前向きな言葉なのだと思うのです。それでも、あの時の自分があって、あの時の空気があって、そしてこの物語が描いてきたものがあって、だからこのラスト数十ページは突き刺さったなんて言葉じゃ足りないくらいに特別だったのだと思います。逃げるだとか、否定するだとか、くだらないだとか、そういうことじゃ無いんだ。何も無いことなんて分かりきっていて、でもそこで、今あるそれで、生きてみろよと言われたような気がして、ああそうやって生きられるんだと思えた、私にとって一つのスタート地点。
それからもう十年近くが経って落ち着いて、毎日割合楽しく生きていて、でもこの空っぽの場所が疑いなく私の始まった場所で、この言葉に蹴飛ばされてなんとかここまでやってきたのだろうと改めて感じた再読でした。好きな小説というのとはまた違うというか、このエログロが好きかと言われたらどうなんだとは思うのですが、でもやっぱりこれは私にとって特別な一冊です。