人類は衰退しました 9 / 田中ロミオ

本編完結の第9巻。
前巻で月へ向かったお祖父さんの訃報から始まる後編にあたる物語は、人類と妖精の歴史を振り返る大スケールの月旅行へという感じなのですが、その大スケールな話といつもの人退の語り口がしっかり両立してることにまずびっくりしました。肉親を再び失ったショックでかなりマトモじゃない状態の私ちゃんの一人称は動揺しているのにいつも通りのノリで、妖精さんのファジーな感じと柔らかさはそのままにスラスラ読める文章で綴られる物語は、けれど読んでいくほどスケールは上がるわ人類と妖精の歴史を俯瞰するわでとんでもないことになっているという。驚きの大転換や大きな話を仕込んできているのに、表をなぞればいつも通り滅茶苦茶なことになってるなあという感じは変わらないのが、もしかしてとんでもなく技巧的なことをやってるんじゃないかこれという感じ。情報の出し方の妙味。SFを毒のあるほのぼので包んでというこのシリーズがやってきたことの極地みたいなものを見せられたような一冊でした。
そんな感じにいつもの人退のノリを楽しみ、相変わらずいい性格をした私ちゃんに癒やされつつ、新人類である妖精と衰退した人類の謎という語られないだろうと思っていた物語の根幹を知り、人間と妖精たちの未来がおもしろおかしく幸多からんことを願いたくなるような、そんな素敵な読書でした。そして、初めて見るくらいに狼狽して一人で月まで行っちゃって、その果てに自分と向き合うことになって大きな大きな真実を知って、でもそれを忘れるわけでも重く考えすぎるでもなくそういうものとして流す私ちゃんはやっぱり素晴らしいキャラクターだと思うのでした。まだ出るっぽい短篇集を楽しみにしつつ、どうぞ助手さんとお幸せに!