青春離婚 / 紅玉いづき

青春離婚 (星海社FICTIONS)

青春離婚 (星海社FICTIONS)

新しい時代の私たちは、指先から恋をする――。

スマホアプリ、botTwitter、ソシャゲにブログ。今まさにこの時代の指先から始まって、その関係性に恋をする、恋愛にちょっと届かないそんな青春の物語が3編。切ないとか可愛いとか言ってる場合じゃなくなる、声にならない声が出るような、破壊力抜群の3篇でした。
既読の『青春離婚』も改めて読んでも「夫婦」という居心地のいい関係性に留まってしまう気持ちと、留まれない気持ちに身悶えするものがあったのですが、それ以上に2編目の『非公式恋愛』が読みだした途端にこれあかんやつだと思うような話。『青春離婚』で出てきたヤギアプリの非公式botを作った青年とそこに絡んできた少女の物語で、これもやっぱり身悶えするような物語ではあるのです。ただ、そこに要素としてあるのが人のキャラクターを借りて満たす承認欲求だとか、Twitterを通じてあけすけに見えてくる人の気持ちや行動だとか、そのやりとりから生まれる関係だとか、ネットストーキングの話だとか、色々と分かる世界の話が多すぎてちょっとこれがもうねという。
ネット上で生まれた自分、築いた都合の良い関係。その現実とネットの壁を壊すのが女の子の強さで、それが素敵だなと思うのですが、これ一歩間違えたらドロドロで泥沼で大変なことになっているギリギリのラインな気もして、身近なテーマだからこそ作家って凄いなと普段以上に感じるのでした。
3編目の『家族レシピ』もソシャゲと料理ブログとそれに載せる写真に手を借りる、やっぱりこれもそこで生まれた関係性に恋をするような話。この作品集は全体通してそういう『恋に恋する』だとか『友達以上恋人未満』だとかくすぐったい普遍的なそれこそ青春まっただ中なものを描いていると思うのですが、それにこんなにも身近で今時なテーマが乗っかるだけでこうまでに破壊力が上がるとは、的な。
遠くで見てニヤニヤする青春模様じゃなくて、もの凄い近場で発生している出来事のような感覚は、これが同時代性と呼ばれるものなんだろうと思いつつ、でもそれをこんなに綺麗で繊細で本当にどうにかなる未満の今まさにキラキラと輝き始めるものとして描かれちゃったら、それはやられましたとしか言えません。ぎゃーと叫んでひっくり返りながらも、だってもう憧れるじゃんこれ、みたいな。
そんな感じでネット上のコミュニケーションやネットを介したコミュニケーションに依存してきた自覚がある人ほど読んでひっくり返ればいいじゃないと思う一冊。
あ、あとやっぱりパスタは燃えますよね!