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ヨハネスブルグの天使たち / 宮内悠介

ヨハネスブルグの天使たち (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

ヨハネスブルグの天使たち (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

ヨハネスブルグ戦災孤児たち、やり直される9・11、アフガニスタンを放浪する日本人、内戦状態のイエメン、エアポケットとなった団地の子どもたち。世界の五つの都市を舞台に描かれる五つの物語は、たぶん戦争だとか、テロだとか、宗教だとか、子どもたちだとか、そういうものが描かれていて、そして横糸を通すように日本製の歌うホビーロボットDX9の姿が、それぞれの場所で均質化された同じなのに、別のものとして存在している。
このお話、私には読んでも何だか全然分からなくて、何かのヒントになるかと思って帯を見たら『伊藤計劃が幻視したヴィジョンをJ・G・バラードの手法で描く』と書かれていてやっぱり全然分からなかったのですが、意味不明だから投げ捨てる! という感じではなくて、今まさに私は何か特別なものを見てると感じさせてくれるような不思議な読書体験でした。
そういう意味ではやっぱりここにあるのは何かのヴィジョンで、だから読んでいるというよりも観ている、作者の眼を通して作者が観ている何か大きなヴィジョンのおこぼれに預かっている、そんな風に感じます。そしてそのヴィジョンは多分、今ここでこの瞬間に私が見て聞いて感じているものから、大きく乖離してはいないだろうという直感だけはある、というか。とても高い塔が目の前にあって、途中雲がかかっていてどうやってこんなに高くなったのか全くわからないのだけど、各日に今立っているここから生えているのはわかる、みたいな感じ。
私にはこれを解釈できるだけのスペックは無くて、だからここに描かれる景色には何が欠けていて何があるのかも判然とはしないのですが、それでも断片的にみえる風景は決して捨て置けるようなものではない何かで、分からないなりに現在だとか、リアルだとか、未来だとか、何かそんな言葉をあてて呼んでしまっても良いんじゃないかと、そんな様に思うのです。