坂東蛍子、日常に飽き飽き / 神西亜樹

坂東蛍子、日常に飽き飽き (新潮文庫nex)

坂東蛍子、日常に飽き飽き (新潮文庫nex)

第1回新潮NEX大賞の大賞受賞作ということで、新潮NEX大賞の方向性がわかるかというとそんなこともないような気がする一冊。ただ、キャラクターが立っていて純粋に面白いというのは確かにこのレーベルらしいのかなと。
そんな訳で女子校生坂東蛍子の周りで引き起こされる数々の大騒動を描いた一冊。読み始めは、飛びまくる視点に多すぎるくらいに多いキャラクター、特に事前説明なく差し込まれる突拍子もない設定にひたすらもったいぶった文章と、非常に読み辛いというか状況を把握しづらくて、かなり苦労して読んでいました。
連作短編の形式なのですが、なにしろ一章からヤクザの構成員が暴走して少年を誘拐するという至極わかりやすい話のはずが、ぬいぐるみ界の話に謎のホームレスに女子高生の人間関係に猫はしゃべるし鳩もしゃべるし閻魔大王の様子が突然描かれてあと幽霊はいるしとしっちゃかめっちゃか。その後も宇宙人は出てくるわ、多方面から世界の危機は迫ってくるわ諜報機関にアンドロイドに人形の国に神まで現れるのだからまあ混沌としているわけです。
それがいまいち噛み合っていないと感じていたのが最初の2章くらいだったのですが、3章を超え最後の4章に入るとそんな滅茶苦茶だったものがあれよあれよと一つの塊になっての大騒動。これがまた謎の疾走感(登場キャラクターもやたら走ってますし)があって素晴らしく楽しいものとなっておりました。
この作品、中心にいるのは坂東蛍子という女子高生でちょっと変わった彼女は彼女の日常を過ごしているだけなのですが、何故かその行動だの周りにいる人だのの行動が大きな事件を引き起こしていくのが愉快な感じ。ただ、彼女自体に何か力があるわけでもなければ、周りにしてもそれぞれ分かっているのは自分の事情だけなわけで、結局坂東蛍子を含めて誰もが巻き込んでいる方であり、巻き込まれている方というのが面白いです。そしてその自分に見えている世界の中で世界の危機なんか迎えちゃったりして振り回され走り回っている、人間からロボから人形からぬいぐるみから猫から宇宙人までの行動や言動が、バトンのように繋がって円を描いているような描いていないような大騒動になるのもまた。
結局全てが噛み合っているかというと全然そんなことはなくて、でも何故か大きな渦のようになって一大スケールの物事が発生して、それでもって最終的には壮大な女子高生の喧嘩と仲直りの物語だったような、そうでもないような。読み終えてしまえば特別に何かが残るわけでもなく、ただ純粋に「おっもしろかったー!」と叫んで終われるような楽しい読書でした。うん、面白かった!