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ほんとうの花を見せにきた / 桜庭一樹

ほんとうの花を見せにきた

ほんとうの花を見せにきた

夜に生きて、空を飛び、生き物の血を吸い、老いる事無く、120年たつと白い花を咲かせる、竹のお化け。植物性の吸血鬼、バンブー。街のならず者のボスに家を襲われ、家族を失い自らも死の淵にあった少年、梗を救ったのは二人のバンブーの青年で。
バンブーと人間の絆を3篇の作品からなる一冊は、青年と少年の擬似家族のようなもっと親密なような繋がりの物語ということで、桜庭一樹作品としては珍しいのかなと思っていたのですが、読んでみればこれ以上無く桜庭作品という一冊でした。
バンブー、夜に生きるお化け。変わらないもの。古きもの。追手から逃れるために女の子として生きる梗は人間であり、変わっていくもの。子供はいつか大人になっていくから、バンブーといつまでも一緒にはいられない。それは「ちいさな焦げた顔」もバンブーの少女と人間の少女を描いた「ほんとうの花を見せにきた」も同じで。そして「あなたが未来の国に行く」は中国の山奥にある古きものであるバンブーが、新しい時代に追われていく物語で、それはいつもの桜庭作品の構図でもあって。
特別な子供である時を経て人は大人になり、拍子抜けするほど普通の人生を歩んだり、悪い道に落ちてしまったり、本当に大事だったはずのことも忘れてしまったり。けれどこの作品はそれを否定しません。変わり続ける、生き続けるのが人なのだと。そして、ここにはその先がある。
梗はバンブーたちに育てられた街に最後には戻ってくる。茉莉花は桃の前に姿を現す。どんな風に変わっていったって忘れないことがあって、変わらないものもある。それは決して無駄ではない、その人が歩いてきた道なのだと感じます。
人々の生涯を描く大河ドラマのような、どこか不思議で神話のような空気のなかで語られていく物語は、明るいことよりもむしろ辛いことのほうが多くて、理不尽な暴力や別れに彩られていて優しくなんかないけれど、出会いも喜びもあって、何よりどこか柔らかい印象があります。
変わらないもの、古きものの象徴であるかのように思っていたバンブーたちも、姿は変わらずとも、決してずっと止まっているものではない。彼ら彼女らも人とはまた違うペースで生きて変わっていっているのだと思った「あなたが未来の国に行く」を読んで、この作品は一貫して、生きて、生きて、死ぬまで生き抜いてと、そんなメッセージに貫かれていたのだと思いました。
読み終えて、ああ良かったなあ、良い物を読んだなあと思える一冊でした。好きです。