虹色エイリアン / 入間人間

地球の何処かの街の片隅で発生した宇宙人とのファーストコンタクト×3。それはそれなりにぶっ飛んだ存在で、実は地球の危機だったりもして、でもこれはとても小さくてささやかな異文化交流の物語。スケール感があっていないというか、起きていることのとんでもなさとまるで当たり前のような日常の空気が不思議なバランスで噛み合っていて、なんだかすごく入間人間作品らしいなあと思いました。
ひやむぎ泥棒の女の子(宇宙人)に、寄生型でお腹から生えてくる少女(宇宙人)に、(頭が)ロブスター型の紳士的な宇宙人。彼らと偶然交流を持つことになってしまった普通の大学生だったりする同じアパートに住んでいる3人の物語が連作短編で描かれています。一大スケールの宇宙的なあれやこれやが背景にありつつも、展開されるのは異文化交流的な地球人と宇宙人の物語。そもそもの価値観がズレていて、言葉さえ通じなかったりもして、生まれた星が違うからそれはどこまでいってもそのままなのだけれど、一緒にいればズレたなりに通じていくものがちょっとずつでもある訳で。
この異文化コミュニケーションの微妙な感情とかやりとりの描き方は相変わらず抜群にうまいです。そしてこの世界の空気や手触り感の描き方も本当に。実は地球規模で大事件なのだけど、まるで日常の小さな出来事のようで、その実本人たちにとっては特別で替えが聞かない大きな出来事、みたいなツイストされた描き方が、こんなにスッと落ちてくるような大切な日常の物語として読めるのが良いなと思います。ああ私これすごい好きだなと。
そして、この3組の地球人+宇宙人の小さなアパートで起きる物語が、実は微妙に繋がって、今や過去で重なり合ってるというのも、全体像が見えてくるとなるほどという感じで良かったです。それぞれがそれぞれだけでは成り立っていないというか、どうしてそうなるの? という部分が実はそう繋がっていたのか、という。
話の中ではカナエとカニャエの物語、「瞳に虹が満ちれば」が好き。言葉も通じないエイリアンの少女との生活の中で生まれていった絆、裏腹にカニャエに迫っていたタイムリミット。読み終えてみれば本当にベタな話だとは思うのですが、読んでいると「あれ……これもしかして……?」からの「あああああああ」で最後のシーンはもう号泣ですよ。 いや、本当に、凄く良かった。
電波女と青春男』や『安達としまむら』のような入間作品のコミュニケーションの描き方が好きな人、あるいは『六百六十円の事情』のような日常系入間作品が好きな人には文句なくおすすめで、今まで入間人間を読んだことがないという人にもおすすめな一冊。私はこういうの本当に好きです。