Elysion 二つの楽園を巡る物語(上) / Sound Horizon・十文字青

このタイミングでエリ組ノベライズでその作家を当ててきますか、しかもイラスト左ですか! とまずは驚いたサンホラ『Elysion』の十文字青解釈による公式ノベライズ。公式ですが、あくまで解釈の一であるというところがSound Horizon的には重要だったりします。
これまでの公式だと『Roman』の桂遊生丸コミカライズが素晴らしい物だったので否が応でも期待値が上がるわけですが、しっかりそれに答えるものというか、そこまでやるか! と思うような物が生まれてきて私は満足です。
上巻には『魔女とラフレンツェ』『Lの肖像』『Ark』『Lの天秤』『Baroque』『Lの絵本』のそれぞれ短編を収録。エリ組はその美しく儚い空気に反して中身はかなり愛憎と狂気に彩られた楽曲が多いのですが、そこを真正面から描いてくるのがさすがの十文字青だなあと思いました。それぞれの歌詞を引用しながらその間と周辺を浮き上がらせてくような感じ。そして浮き上がらせるからにはこの楽曲たち、隠れていた相当なものが引きずり出されるわけですが、そこにがっつり向かい合ってるという感じで。
ラフレンツェ、ソロル、エリスとまあどの娘もこの娘もなヤンデレっぷり。かなり踏み込んで描いてきているのでちょっと目眩がするような感じです。ラフレンツェとオルドローズの関係から、彼女がいかにして禁忌を犯したのか、そしてそれがどのような結末を導いたのかはゾクゾクするものが。ラフレンツェとオルフェの間にあったもの。それが「振り返ってしまうだろう」に繋がっていくこの感じがもう。
そして問題の『Ark』。いや本当にこれやばいです。謎の教団。何らかの目的で脳をいじられて閉じ込められた少年と少女。ひたすらにリフレインされるフレーズ。記憶をなくした兄(フラーテル)と妹(ソロル)、二人だけの世界で生まれる愛と呼ぶには歪すぎる依存関係。犯されるタブー、狂気、反転、楽園、『Ark』。素晴らしい狂ったものを見せてもらって、読み終えて目が回るような感じでした。
あとがきで作者が語っているように、『Elysion』は多分サンホラでも一番ノベライズするのは難しい、抽象的で断片的な作品だと思います。それだけに、かなり格闘して書いたという感じが透けて見える部分もあるのですが、それにしたってあのボールを良くもここまで打ち返したと思えるような、とても良いノベライズでした。下巻、『Stardust』も『Sacrifice』もこのクオリティで来るってそんなの楽しみに決まっている……!!