ヴォイニッチホテル 3 / 道満晴明

ホテル・ヴォイニッチを舞台に描かれる混沌と幻想の日常群像劇、これにて終幕。
どういうマンガだったのこれ? と聞かれたらたぶん難しい顔をしながら、なんだったんだろうねこれ? と聞き返してしまうような、そんな言葉ではとらえどころのない作品。けれど、最高に面白かったし、好きだったし、読んだ時に胸のところがすうっとなるような不思議な感覚がたまらない、そんなシリーズだったと思います。
たぶん、常識で読もうとするとあらゆる面から驚かされるのだと思います。キャラクターの行動も、設定も、唐突に入り混じるファンタジックな設定も、ネタかと思ったら伏線だったり、思いがけないところでストーリーが続いたりするところも全部含めて。キュートだとかダークだとか、意外と下世話だとかどこか神秘的だとか、そういう類型的な何かで測ろうとするとするっと逃げていってしまうような。
けれどここには間違いなくヴォイニッチホテルの世界があって、それは確実に何かの正しさをもっている様に見えるし、ブレないから何を外されたって無二の説得力がある。そしてこの世界を、軽々しく人が死んだとしたって、愛おしいと思わせてしまうだけの魅力が、この作品にはあったと思うのです。
エレナがタイゾウを救いに来たシーン。血と骨にまみれた部屋の中で、椅子に縛られた男に小さなメイドが膝をついてもう大丈夫ですと話しかけている。それを美しいと感じてしまったから、これはもう理屈なんかではなく、こう言うしかないんじゃないかと思うのでした。大好きです、と。