がっこうぐらし! 1〜5 / 海法紀光(ニトロプラス)・千葉サドル

アニメの新番チェックをしていて、またきらら系の日常モノかと思って、スタッフ(特に脚本)を見て「ん?」となって、1話を見てやっぱりかあああああとなったがっこうぐらし。まああれ見たら翌日に全巻揃ってても仕方ないよねという訳で一気読みしたんですが。
途中からもう「つらい」「つらい」「救われてくれ……」しか言えなくなりますねこれ。
この作品、アニメの一話だけ見た感じでいくとゆきの見ている世界だけがいわゆるきらら系日常萌えモノで、実はゾンビパニックアクションでしたという仕掛けになっています。それってともすればその見せ方だけの一発ネタで後が続かないってことになりかねないないものだと思うのですが、いやはや全然そんなことはなく。幸せゆるゆるな日常ものと極限状態のサバイバル、両極端をシームレスに行き来する演出とえらい可愛いのにそれだけじゃない千葉サドルの絵。そして作品の根幹の部分に、ゆきが見ている世界とそのゆきを見ている学園生活部のメンバーというものがある訳で。
なんらかのウイルスの流出でゾンビが溢れて荒廃した街。たまたま屋上にいた事で難を逃れた少女たちが暮らす学校。現実を受け止めきれずに幼児退行して幸せな学校生活を見続けるゆきの存在は、単純な損得勘定で考えれば足手まといでしかなくて、後からこの学校にきたみーくんがそうしたようにどうして目を覚まさせないんだと思うはずのもので、けれど彼女たちはそれをしない。
それは、彼女の見続ける幸せな世界が、彼女の心からの笑顔が、どうしようもなく目を背けたくなる現実に紙一重のフィルターをかけてくれるから。消えることのないゾンビの脅威。何をするのも命がけでただ追い詰められていく毎日。けれどゆきにかかれば、ある意味閉じ込められたこの場所は楽しい学校の部活で、決死の物資調達も遠足で、絶体絶命の火災も避難訓練になる。読み進めると、りーさんもくるみも精神的に限界で、本当に紙一重の中で生きていることが分かります。だから、そんな彼女たちはゆきを助けることで、ゆきに縋った。縋らなければ生きられなかった。それを初めは共依存と切って捨てたみーくんでさえも。
物資の不足、ゆりねえの真実、緊急マニュアルの存在、くるみの危機、助かったと思ったところからの。冷静に読めば状況は悪くなるばかりで、彼女たちの心を守る蜃気楼のような日常系の世界は圧倒的な現実に塗りつぶされそうでも。絶望と幸福を壊れたメーターのように針は振れ続けて、浮かび上がっているこれは辛い中でも必死に生きようという健気さなんて甘いものではない狂気。それはきらら系日常萌えでもゾンビパニックでもない、それを組み合わせたからこそ生まれたこの作品の色であって、そこが面白いと思います。
しかしですね、それを一体どういうふうに受け止めればいいのかが分からないのです。この子はもうある程度状況を認識しているんじゃないかと思わされるバットをもって二人を救いに行こうとしたゆきの姿。学校にはもういられないという最悪に近い状況と楽しかった学校生活の終わりが混ざらないまま襲ってくるようでただ涙の出る卒業式のシーン。
ああ、なんて世界だ……と呟いて、精神をごりごり削られながら、ただ救いあれと祈るしかないような、そんな作品。これ、凄いんじゃないかと思います。