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掟上今日子の備忘録 / 西尾維新

感想 ☆☆☆☆

掟上今日子の備忘録

掟上今日子の備忘録

『物語』シリーズを読み進めるうちにどんどん冗長でくどくなる文章が苦手になって、なおかつ『難民探偵』で西尾維新のミステリはちょっともういいかなと思い、そんなこんなでこの『忘却探偵』シリーズは全く読むつもりはなかったのです。ですが、まさかの西尾維新作品実写化なドラマが殊の外面白くて、これは比較の意味でも読まねばなるまいと手を出した今日子さんシリーズの1冊め。
西尾維新らしさでもあるネジのぶっ飛んだキャラクターはかなり抑えめで、とはいっても1日しか記憶が持たない、今日しかない今日子さんの設定、そして彼女を探偵役に持ってくるというのが面白いです。仕事は1日限定予約不可、最速の探偵掟上今日子と生まれつき不幸を招く体質で犯人と疑われては度々彼女に助けを求める青年隠舘厄介。1日しか記憶が続かないならこのくらい強固ではないと生きていけないのだろうと思う今日子さんの図太さなのですが、とはいっても不思議と可愛げあるのが魅力的。そして厄介との会話はテンポも良いです。テンポといえば事件の方も最速の名の通りあの手この手のあっさり解決でお手軽さっぱり読めて、けれど不思議と物足りなさもないあたりは絶妙な塩梅だなあと。
そして何より肝になるのは掟上今日子という人が1日しか記憶を維持できない、つまり連続性がない以上、毎日が別人だということ。時間は進んでいるのに、彼女一人だけがループの中で幾つもの掟上今日子の可能性を演じているというのはそれだけでゾッとするものがあるのですが、彼女に好意を寄せる厄介からすれば何度事件を依頼して親しくなったとしても、必ずリセットされて初対面として次の日がやってくるという辛さでもあって。擬似ループをしているのは今日子さんなのに、タイムリープものの苦しさを味わうことになるのが厄介の方であるというのも面白い構造だなあと思います。
そしてそういう前提で語られる3つの事件の後には、当然そういう話が来るよねという後半2編。継続しない今日子さんがルールを破って徹夜で挑む事件、その無茶な推理は頓挫したかに思われて……という話ですが、リセットされる記憶と積み重ねる時間、続いているものは何? というのを二人の関係性の中で描かれるというのはまあベタではあるのですが大変良いものでありました。
懸念していた文章も、初めの方は同じことを言葉を変えて回りくどく繰り返されて辟易するところもあったのですが、進むに連れてなれたのかシンプルになったのかで気にならなく。最後には今日子さんが探偵である理由も少しだけ描かれて、ちょっとこれは続きも読まねばと思う1冊でした。
ちなみにですが、ドラマは設定も事件も同じなのに全く別物でどちらも面白いものだと思います。ドラマに登場するサンドグラス(及川ミッチーが素晴らしい)がそもそも存在していなかったり、事件自体も1時間ドラマ用にちょこちょことふくらませている部分もあるのですが、それ以上に今日子さん自身が全く別人だと思うのです。
この原作小説の今日子さんにちらつく破綻の影だとか、それ故かのピーキーさ、何から何まで極端な印象を受ける部分が、ドラマで新垣結衣が演じる今日子さんにはあまり感じないなと。厄介役の岡田将生の情けないけど憎めない演技も相まって、二人の関係もどこか柔らかさのあるもののように思います。その辺りは、ドラマでは冗談だとすぐに否定した最後のセリフが、原作小説だとさながら冗談にも思えないあたりに象徴的かなと思ってみたり。