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サムライ・オーヴァドライブ -桜花の殺陣- / 九岡望

感想 ☆☆☆☆☆

異能、チャンバラ、ボーイミーツガールで合わせ一本というか、その組み合わせでちゃんとやってもらえればめっちゃ好みですありがとうございます、みたいな一冊でした。時代劇からスターウォーズライトセーバーまでやっぱりチャンバラって燃えますよねっていうのと、異能バトル+ボーイミーツガールなラノベの型の掛けあわせというか。そして、戦闘描写の密度と疾走感は流石の一言でした。硬めの表現を多用する文章も、和風異能の世界観にあっている感じです。
日本の銘刀vs西洋神話の名剣と帯にある通りなのですが、この剣というのものが刃に血を焼きこむ緋鋼という技術により個人兵器と呼べるほどの力を持ち、それ故に形作られる血と刃の権力構造に支配された世界が舞台。物語は、かつて見た一閃に魅入られるも剣の才を持たずに刀剣管理機構の下っ端である刃走として生きる少年が、剣の世界でトップである鋼の血統である季風家の当代である少女と出会うことで動き始めます。名家の当代でありながら世間知らずで弱気な鳴という少女と彼女の警護を任された少年方助が妖刀を巡る事件に巻き込まれていくという話ですが、圧倒的な才能を持ちながらただ季風に言われるがままに生きていた彼女がその渦中で少しづつ変わっていくのが良かったです。
優しく気弱で、剣は体の一部でありそれを振るうことは当たり前であって、本来ならば家督を次ぐことはないと自分で思っていた少女。だから彼女には自分の意思がなく、自分がどれだけの力を持っているかも無自覚で、それが方助との出会いで、巻き込まれた事件の中で変わっていく。力についてまわる責任と、それを振るうことで誰かを救えるということ。そしてその重さを背負って彼女が季風当代としての一歩を踏み出すことができたのは方助の存在があったからこそ。
ただ、ちょっとこの方助というキャラが掴みかねるところがあったのがこの一巻。設定含めてかなり情報量が多いというか、詰め込んでごちゃっとしているところのある一冊で、それなのに方助周りは大きな設定が意図的に隠されている感じがします。刀剣マニアだけれど剣才がない彼が縛られるのは十年前に自分を救った一閃、今は鳴が継いだ季風の刃と、もう一振りの妖刀。それを追うことが全てのようだった彼が鳴という存在に出会ってどう変わっていくのか、そもそも彼が何者なのかはこの先の焦点なのかなと。イメージ的にはどうもサムライの少女とニンジャの少年という感じですがさて。
そしてその辺りを考えるに、今回の敵であった妖刀使いハインツは、鋼の血統という大きな力に弄ばれた傍流である点で、何を己の芯としたかが異なる鳴の合わせ鏡であると同時に、何かを失った少年が一点だけを見て生き続けたという方助のあわせ鏡でもあったのかなあと思います。彼にとって道理よりも自分の命よりも上に来た復讐が、方助にとっての剣への執着であるのならこの道の先にあまり明るい未来があるとは思えず、それでも周りの人々に恵まれたことが、彼にとっての光になればと。