天賀井さんは案外ふつう 1 / 城平京・水野英多

この作品、帯にもあらすじにもジャンルが謳われていなくて、読んでみるとたしかにこれは何なのだろう……? となる不思議な一冊です。設定的には最近の城平京らしい伝奇もので、あとがきには「日常系伝奇コメディ」と語られているのですが、なにせあまりに色々な要素が雑多に放り込まれた闇鍋のようになっていて、じゃあ表立って何に見えるかと言ったら斜め上を狙い続けるシュールギャグなんじゃないかと。
そんな感じで二匹の化物の伝説が語り継がれる街にある目的で転校してきた天賀井さんと、彼女が出会う少年の物語、ではあります、一応。そしてそこから一気に動き出す物語は表面上はコメディ。そしてすごい勢いで斜め上に吹っ飛んでいく設定。城平京作品のキャラ同士の掛け合いや、真面目な顔で投げ込まれるシュールな設定が好きならおすすめですと言ったところですが、城平京作品なのだからそれだけじゃないでしょうと。
シリーズも後半になると伏せカードをオープンして見えていた図面がどんどん書き換えられていくというのはこの人のいつものパターンなのですが、今回はそれがやたらと早いように思います。読み進むごとにそれは本気で言っているのか……? みたいな設定がバンバン明かされて、一冊終わった頃には既に読みだした時に見えていたものは遥か彼方へ。一応この辺りが仕掛けなんじゃないか、怪しいんじゃないかと思った部分が、次の瞬間には予想のはるか上空に存在していたギャグのような設定で明かされていくこの斬新な感覚。
この表向きは緊張感の欠片もない物語が、シリアスに振れずに日常系の表情を保ちつつ、刻一刻と状況を変えながら伏線を収束させて見事に最後の盤面を描き出すなら、それはすごい作品だったと言えるようなものになるのではないかと思います。そして「雨の日も神様と相撲を」を読んだ後だと、城平京ならそれをやってくれるのではないかと期待してしまうのです。