りゅうおうのおしごと! 3 / 白鳥士郎

りゅうおうのおしごと! 3 (GA文庫)

りゅうおうのおしごと! 3 (GA文庫)

これだけ真っ向から勝負の世界を描いた作品で、八一と銀子の師匠の実娘、内弟子だった二人の優しい姉代わり、将棋の世界では妹弟子にあたって、女流棋士を目指しながら研修会でくすぶっている、年齢のリミットを前にした25歳。清滝桂香というキャラクターがいる時点で、こういう話はどこかでかならず来るのだろうとは思っていたのです。いやでもそれがこんなに早い段階で、こんなに真正面から、こんなに容赦なく来るとは思っていませんでした。熱く、厳しい、才能と勝負の世界のお話でした。
将棋の世界に生きる人たちが、その人生をかけて将棋盤の上でぶつかり合う。テクニカルな部分の話では今回は居飛車振り飛車という大きなテーマがあって、それは将棋に詳しくない私にはわからない話ではあるのですが、そこは凄いことは何となく凄いと思えるように描写されるので大丈夫。それ以上に、将棋というゲームがメンタルにも大きく左右されるもので、そしてまさしく将棋人生をかけたドラマがそこにあるからこの作品を読んでいて惹かれる、というか強引に持っていかれるような感覚があるのだと思います。
ここにはキャラクターの数だけドラマがあって、そして大きく取り上げられていたのは才能と努力、精神、夢や憧れ。桂香からすれば遥かに強く見える銀子が、八一たちを将棋星人だと言う。その八一には振り飛車党の生石の捌きの感覚はつかめなくて、名人はさらにはるかな高みにいる。才能がないと言われながら不屈の努力で這い上がってきた山刀伐。末恐ろしい才能で駆け上がるが故に、周りを切り捨てていく結果に惑うあいと、それを叱る八一。プロになるような才能はないことは分かっていても、それでも将棋を続けたいと叫ぶ飛鳥。時間と自分の限界に追い詰められる中で、いつの間にか見失ってきた将棋を指す理由に向き合う桂香。
将棋という世界で生きていく者たちが、強いものが、弱いものたちの屍の上に勝ち上がっていく世界にどう向き合うのか。そして彼ら彼女らは将棋盤の上で真っ向からぶつかりあいます。緩くも優しくもない、真摯だからこそ、青く、苦しく、けれど熱い話が連続する。作品の中でも、一つの作品としても真正面から捨て身で殴りかかってくるような物語の熱量に呑まれて、終盤はちょっと鳥肌が立ちっぱなしでした。
辿り着く場所は、簡単に好きの一言で片付けられるようなものでも、夢や憧れと言えるようなものでもなくて、それでも、逃れようもなく将棋に引き寄せられ、将棋とともに人生を重ねていく、それ以外が選べなかった人たちの境地なのだと思います。そしてそういう人々の物語を、この先もっと読んでいきたいと心から思いました。
本当に面白かった。傑作だと思います。