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スペース金融道 / 宮内悠介

スペース金融道

スペース金融道

人類が最初に移住に成功した惑星である二番街を舞台に、審査は緩いが金利は高いヤミ金業者の二人組が主にアンドロイドの債権者を「宇宙だろうと深海だろうと核融合炉内だろうと零下190度の惑星だろうと」取り立てるSFコメディ連作短編。
量子経済学やなんやの経済理論にアンドロイドや人あらぬものたちと人類の共生といった何だか難しげなSF要素もありつつ、ぶっ飛んだアイデアと斜め上の展開とぼくと上司であるユーセフの関係の面白さがコメディしていて楽しい一冊でした。まあ、小難しいところは賢い人の考えることはようわからんと思って読んでいれば、主人公であるぼくもさっぱりわからんと反応してくれるので問題ない……はず。まあ、たいていその後にユーセフに馬鹿にされ扱き下ろされるわけですが。
取り立てのためならその無闇に高いスペックを使ってなんだってするユーセフが、命の危険も迷惑ごともガンガンぼくに投げつけつつ前に進んでいくのですが、たまに優しさを見せるような、見せないような、抱えた過去の傷を見せるような、見せないようなその絶妙なバランスと。罵倒されひどい目にあい文句を言いながら、なんだかんだでユーセフを信頼してるような気がしなくもないぼくの関係も良かったです。意外とちゃっかりしていたり、その割に面倒事にあっていたり、自己評価高くないけどなんだかんだとんでもない能力持ってるよねというところだったり、破茶目茶なのに嫌な感じがなくて良い感じ。
投げ込まれる経済とアンドロイドとなんかそれ以外のアイデアの数々は、斜め上へと展開を持っていくのですが、ただとにかく勢いでというよりはしっかり計算された上で斜め上へ伸びているといった印象。それにしたってコンピュータ内の人工生命への金の貸付からその世界にダイブした上で最後は地獄に向かったり、アンドロイドたちのカジノ船で紙切れ(保証がないほど金融商品としては良い……らしい)で作った新通貨で経済的狂乱を巻き起こしたり、寄生虫に脳内で話しかけられてたらナノマシンで世界の危機だったりとなかなかぶっ飛んだ話ばかりだったと思います。でもこの作者が書くと何か凄く頭のいい、高尚っぽい雰囲気を受けるのは単に私が馬鹿なのか。
あとは、アンドロイド関連の話に感じる、人間に対する信頼というか愛着というか、なにか断ち切れない感傷みたいなものが印象的でした。合理性に偏らないための経験主義原則。アンドロイドの無意識として位置づけられた、人間のネットワーク。そこに接続を許されないアンドロイドたちの暗黒網。突き詰めて突き詰めていくことへのブレーキと、突き詰めきった先に何があるのかは、ユーセフの金融への考え方もアンドロイドの理想もオーバーラップする部分があって。最後の「スペース決算期」でのゲベイェフの辿った結末は、その辺りも相まって良い悪いではなくて、なにかすごくセンチメンタルなものを感じました。
その一編は特に顕著ではありましたが、作品全体としても荒唐無稽やことをやる中で、そういう質感というか手触りがちょくちょくと顔を出す、そういうところが特徴的な一冊だったと思います。