魔法少女育成計画 QUEENS / 遠藤浅蜊

順調に生存者が減っていき魔法少女になんかされた瞬間もうあかんかったんや……感が止まらないアニメのまほいくも大概にクソみたいな話をやっておりますが、原作最新刊はまたスケールのでっかいクソみたいな話ですね!!! しかし恐らくこれまでのシリーズで話としては一番面白かった。

一応以下ネタバレありで。


という訳でJOKERS、ACESからの三部作完結編。広げに広げた風呂敷をどう畳むのかと思っていましたが、なるほどこう畳みつつ畳まないところは何も畳まず、そして多くの問題は何も解決しないのかっていう。オスク派vsプク派の実質的に存亡をかけた戦争に独自の思惑で関わる人達、裏で暗躍する人たち。正面からぶつかる魔法少女たちの闘いは多くは語られないものの過去最大数の死体を積み上げる凄惨なもので、そのくせ戦場では可愛らしく歌い踊るプク様の映像が流されまくってて何だこれ。まあ、洗脳兵器なのですが。
あらゆる勢力の思惑が入り乱れ、それが最低に胸糞悪いストーリーを描き出すのですが、こうなってしまって魔法の国はどうなるのか。正直もう破滅の未来しか見えていないんですけど。そしてその未来の中で、フレデリカや暗躍するラピス・ラズリーヌ、まだ健在だろうカスパ派、そして生き残ってしまった彼女たちが何をしていくのかが楽しみにはなれないですが気になります。このシリーズ、意味もなく報われることもなく人が死ぬと思っていたのですが、本人にとっては無意味であっても、残された者たちを呪いのように縛る死を遂げる魔法少女多いですよね……と生き残った面々を見て本当に。
しかしまあ今回最大の見所はラストのプフレとシャドウゲールの最期でしょう。プレミアム幸子の契約書は契約者に最高の幸運をもたらすと引き換えに最大の不幸を運ぶ、だから最高強度で洗脳されたシャドウゲールにとって最大の不幸は「プク様の死亡」と踏んで、ギリギリの状況でプフレは賭けに出た。でも、野心家で陰謀家の人小路庚江という人は、全てを投げ打ってまで魚山護という1人の人間を助けたいと思いながら、彼女が自分に対してどういう気持ちでいるのかが読めなかったのだと思います。魔法が導いた答えは「プク様の死、及び洗脳されたシャドウゲールがプク様を庇ってプフレを手に掛ける」というもの。そしてそれが魚山護にとっての最大の不幸。
逆に従者として人小路庚江に振り回され続けた魚山護は、彼女を危険の中に置きたくなくて彼女の記憶を隠すという主人への反抗を行った訳ですが、色々なものを踏み潰してでも己の野心を実現させてきた人小路庚江という人が、全てのチップを賭けてでも自分を救いにくることだけを目的とする未来があるなんて思ってもいなかったのでしょう。誰よりもお互いを大事に思って、それでも互いに相手がそう思っているとは思い至らなかった。少し自分勝手すぎた二人の関係の最期は、失われた彼女にとっても、生き残ってしまった彼女にとっても、決して望むものではなかった、悲しい結末だとは思いますが、何故だかとても美しい悲劇だと感じました。
プクプックの魔法については、魅了というか最早洗脳の域に近いもので、本人もその作用は分かっていながらそれを「お友だちになる」ことだと捉えて最後まで疑わず、魔法の国のため、お友だちのためを想って最期まで動いていたのがとんでもなかったです。純粋が故の邪悪という意味ではスイムスイムと同系統なのですが、三賢人の現身、ちょっとそのスケールが違いすぎる。そして精神的に追い詰められたスノーホワイトが洗脳されて魔法を使ってくれてありがとうというシーン、自ら洗脳したスノーホワイトの遊びを省いた的確な進言に心酔していくプクプックという構図がヤバい。自ら洗脳しておいて、その相手に心酔するって自家中毒にもほどが……。
あとグリムハートが捕らえられたオスク派を率いたレーテさんがただ偉そうなだけの無能かと思ったら、立派な指揮官過ぎて見誤っておりましたと。ただ偉そうなんじゃなくて偉いから偉そうなんだこの人。
群像劇の色合いが強まってもう誰が主人公だかわからないのですが、ちょっと今回でも死ぬんじゃないかと思って読んでいた主人公のはずの魔法少女狩りさんについては、本当にどこかで退場してしまいそうな気配が。今やっているアニメのあの惨劇から始まった魔法少女としての彼女の物語が、ここまで引っ張った上で何も報われること無く閉じるのはあまりにも虚しく、でもそれをやってきそうなこのシリーズだから怖いものがあると思いました。