少女キネマ 或は暴想王と屋根裏姫の物語 / 一肇

 

少女キネマ 或は暴想王と屋根裏姫の物語 (角川文庫)

少女キネマ 或は暴想王と屋根裏姫の物語 (角川文庫)

 

二浪の末に東京は吉祥寺の大学に進学した主人公は、女人禁制のぼろ安アパートに住みながら、 何をする訳でもなく大学生活という流れに呑まれつつあった。そんな時、唐突に天井裏から現れた少女さちと出会い、みたいな導入の物語。

勿体まわした言い回しの一人称とどこか時代錯誤で悶々とするボンクラ大学生の日常に、一本通る筋は映画というもの。主人公が何故映画を嫌うのか、アパートに集まるキネ研の部員たち、そして才条見紀彦という存在。主人公が何故この大学に来たのか、才条はここで何を撮っていたのか、そして何故映画の魔物に呑まれて死んだのか。

その天才だった友人の謎を巡って物語はゆっくりと進んでいくのですが、瞑想系青春ミステリーと帯に謳われながらも、鮮やかに真相が解明されていくという訳でもなく、まあただひたすらに主人公がうだうだと暑苦しく迷走している感じ。それこそ青春とも言えますが、正直中盤までは割と辛く、語りの勢いとこんな子いないわと思うような純真清楚大和撫子なさちの存在でなんとか読み進めていたのですが、終盤が凄かった。

暴想王たる主人公の想いがほとばしり、映画という関わるものに全てを求める魔物が躍動する感じ。素っ裸になって全部をぶつけてたくさんを犠牲にして、それでも求める何かに向けて走り出す疾走感。そこまで溜め込んできた、どこにも行き場無く渦巻いていたエネルギーがそのまま熱になったような熱量と勢いは本当に凄かったです。

どうしようもなく今この時この画を撮るしかなかったという物語は、作者にとってどうしようもなく今この時に書くしかなかったのだろうと感じられて、それがまた勢いを生んでいるような感じ。この溢れ出る衝動はなるほど「このラストシーンを書けたらもう死んでも悔いはない」、「第2の処女作」なのだなと思いました。