あとは野となれ大和撫子 / 宮内悠介

 

あとは野となれ大和撫子

あとは野となれ大和撫子

 

 崩壊寸前の国で後宮出の少女たちが国家をやってみる。次から次へと降ってくる難題に直面しながらも、自分たちの居場所と在り方を賭けて、彼女たちが精一杯に駆け抜けた、とんでもなく勢いのあるエンターテインメントでした。読み終わってまず出てくる感想が、面白かった! アニメで見たい!! だったのですが、まさにそういう映像が頭に浮かんでくる作品だったと思います。なんなら既に私の脳内ではアニメ化されている、くらいの。

アラルスタン。中央アジア、干上がったアラル海ソビエト末期に建国された小国。地理的にも政治的にも難しい立ち位置にある、居場所をなくした難民たちの国。そんな国で大統領が後宮に作った学校で学んでいた少女たちは、国をまとめていた大統領の暗殺から議会の逃亡という政治的空白を目前にして、自ら立ち上がり臨時政府を樹立します。

建国の経緯。気候や作物、そしてウズベキスタンカザフスタンに挟まれる地理的な部分。イスラム過激派組織すらその内に抱える宗教的な部分とそれ故に晒される外交上の動き。内政の動き、市民たちの暮らし、多民族国家としての文化的な立脚点、娯楽、国家にとっての象徴として存在する遊牧民たちの暮らし。テロリズム、戦争、難民の子どもたち。環境問題やひいてはかつてのソビエトによる核実験まで。

この作品のベースを支える、アラルスタンという国があったとしたら存在しただろう設定やこの国が直面することになる問題の在り方は、本当に緻密でリアリティがあって、そういうテーマを取り扱ってきた作家だからこその説得力があります。ただ、それ故にこの国がおかれた状況は、どう理屈で考えても詰みのように見えます。

だから、議員たちは逃げた。そして、彼女たちが立ち上がった。難民だった少女たちがアラルスタンという居場所を守るために。幸いにも彼女たちには学があって、才能があった。経験はなかったけれど、間違いなく優秀ではあった。でも、それだけじゃどうにもならなかったのだと思います。だから、その閉塞を打ち破る輝きが彼女たちにはあって、それがこの物語を駆動させる勢いになっている。少女小説的な、アニメ的な荒唐無稽さ、そしてクライマックスの舞台はまさに狂宴。それは、緻密な背景設定と一見アンマッチのようにも見えて、でもこれしかないんだと。物語というのは、本当に理屈だけじゃないんだとなと思いました。瑞々しく躍動して、どこまでも駆けていき、時に狂気すら感じさる彼女たちの姿はそれくらいに素敵だった、それが答えであるのかなと。

 ただ、正直中盤から終盤の展開は少し駆け足で、もう少しそこに至る描写が欲しかったというか、上下巻くらいで書いてほしかったような気もします。そのあたり含めて、1クールだと尺が……となるアニメっぽさを感じたりも。たぶんこれ、初回からの丁寧な描写でおおおってなって、中盤から超展開って言われがちになって、最終的にはいい最終回だったってなるタイプのやつでしょう、みたいな。

あと、作中で彼女たちのリーダーたるアイシャについては独裁者の資質があると言われていて、確かにそういう危うさがあるなあと思うところがあるのですが、読んでいてそれ以上にナツキの普通そうで全然普通じゃないヤバさみたいなものは強く感じました。物語上、それがイーゴリとの対比だったり、2人のあのやり取りに繋がった訳ではありますが、後宮に来た経緯はあれど、ナツキさん完全にネジがちょっとどこかにぶっ飛んでますよね? と思いたくなるシーンが多くて。でも、そのくらいじゃないとあの苦境は脱せないよな、と感じるところもあり、やっぱりこのどこか狂気じみた勢いの物語の主人公は、彼女であるべくして彼女であったのだと思いました。