恋と禁忌の述語論理 / 井上真偽

 

恋と禁忌の述語論理 (講談社ノベルス)

恋と禁忌の述語論理 (講談社ノベルス)

 

 高校生の主人公が、数理論理学を専門にする叔母の硯さんのところに事件を持ち込み、それを硯さんが推理するという形のミステリ連作短編集。

この作品の何が特色かといえば、そのアラサー独身美女でどこか世間ずれした硯さんが推理に使うのが数理論理学だというところ。キャラクター含め過剰なまでに演出された主人公の持ち込む事件を、公理と命題と推論規則に落とし込む。そこにあるのは、キャラクターの考えや動機なんてものは入り込むことはない、ただ純然たる論理として、その結論が導けるかどうかだけ。

故に硯さんは現場に居合わせるわけではなく、主人公が持ち込む現場で起きた不可解な事件の話を聞き、それを解決した探偵の推理が証明可能なものであるかを検証するのみ。それはもはや安楽椅子探偵というか、探偵の正当性を検証する存在であって、具体的に事件の真相を推理するわけではありません。というか、これは証明できない、この可能性があるという提示はするのですが、じゃあ硯さんの推理が正しいかというと、自分でも言及してる通り公理に検証が必要だったりと、はっきりとしたものではなく。

それはまあ数理論理学というものの性質を考えればそのとおりかもしれないとはいえ、何だかなあと思う部分もありつつ読んでいたのですが、最後まで読んでなるほどと思いました。そういう仕掛けであるのならば、作品構造として、硯さんの立ち位置はまさにそれが正しいのか、と。

ミステリの形式を取りつつ、半分くらいは数理論理学のテキストなんじゃないかという作品で、正直内容を全部理解できたかというと微妙なところもあり、仕掛けに納得はしたものの、それで面白いのかというとなんだかなあと思うところもあったりはします。でも、この一点突破の歪さと、それでも全体としては形になっている感じ、そうだよなメフィスト賞だもんなこれくらい尖っているよなと、不思議な満足感があるのは確かでした。