BEATLESS 上・下 / 長谷敏司

 

BEATLESS 上 (角川文庫)

BEATLESS 上 (角川文庫)

 
BEATLESS 下 (角川文庫)

BEATLESS 下 (角川文庫)

 

アニメ化に合わせて 大幅加筆修正で文庫落ちということで、5年ぶりの再読。あとがきでも書かれているのですが、この5年で古くなるどころか、AIもクラウドも話題に上る事が増えて、時代が追いついてきている感じがするの、正直凄いと思います。

そして久しぶりに読んで、ああこの小説は文庫上下1200ページを費やして、ひたすらにヒトとモノの関係の限界ぎりぎりを攻め続けるものだったなと。人のかたちをしたモノであるhIEとの関係、そして人を超える知能を持つ超高度AIとの関係、この2つのテーマを軸に同じ場所を何度も何度も違う色で塗り直していくような物語になっています。<人類未到産物>であるレイシア級hIEたち。その1機であるレイシアを拾ったアラトと彼の周りの人たち。レイシア級を生み出した超高度AI。管理元であるミームフレーム社。

近未来を舞台に様々な人たちの様々な立ち位置が、ヒトとモノをめぐる物語を動かしていき、明確な答えが出ないままに反復され続けるテーマは、かたち、意味、アナログハック、キャラクター性、経済へと広がりながら怒涛の展開になだれ込みます。誰かにとっての正解が、誰かにとって正しい意味をなさない、人類の愚かさいい加減さとその反面の強かさが、AIを前にして問われ続ける人とモノの関係の臨界点の物語は、同時に最初から最後まで、ヒトとモノ、アラトとレイシアのボーイミーツガールの物語でした。本当に、あまりに濃密で、壮絶で、なんというか、ただただ凄いものを読んだなと。なかなか分量的にも読み応えのある作品ですが、とにかく読んでみてと勧めたくなるような小説です。

元々が連載作品だったこともあるのか、そこらじゅう盛り上がりっぱなしで特に後半は大変なことになっているのですが、個人的に好きなシーンは紅霞の最期。人の闘争をアウトソースされる道具である彼女が、個体性能の限界に行き当たった時に目的を為すために取った行動があまりに人間らしく見えて、裏返って人間とは何かを問われているようで印象的でした。彼女の上位互換であり、人間を拡張する道具であったメトーデも同じで、そこがヒトとモノと環境の総体にこころを見出したことへ繋がっていった部分でもあるのかなと思います。

あと、人より優れた知能がある世界の中で、かたちに意味を見出すことが人だけに残された特権であるのなら、難しいことは考えず一番目の前にあるかたちに怒って泣いて喜ぶアラトの妹のユカが、この作品の時代において、誰よりも人間らしかったのではないかなと思ったり。

 それから、一番好きなキャラクターはエリカ・バロウズなので、彼女がコールドスリープから目覚めた時のことが描かれたS-Fマガジンの短編も読みました。

S-Fマガジン2018年4月号

S-Fマガジン2018年4月号

 

 21世紀から来た彼女に、22世紀の世界がいったいどのように見えていて、その憎悪の出処がどこにあったのか。そして彼女が何故ああいう行動を取ったのかがよく分かる短編になっていて良かったです。個人的には、この時代において人間の手で何かを掴み続けることを志向するリョウたちに対して感じた違和感が、エリカの視点を通すことではっきりと腑に落ちた感じがありました。