超動く家にて 宮内悠介短編集 / 宮内悠介

 

超動く家にて 宮内悠介短編集 (創元日本SF叢書)

超動く家にて 宮内悠介短編集 (創元日本SF叢書)

 

 「深刻に、ぼくはくだらない話を書く必要に迫られていた」

 宮内悠介のくっだらない話サイドの短編集ということなのですが、お前はアホか!! って本を壁に投げるタイプという訳ではなく、くだらない発想を大真面目に膨らませたといった感じ。いや、表題作や「トランジスタ技術の圧縮」は出オチかよ!! って感はありますが。特に表題作の「超動く家にて」。たしかに超動いてた。動いていたけど、まあ、うん。あとエラリー・クイーン数な。

くだらないことを大真面目にとは言うものの、作品ごとにかなり振り幅が大きくて、全体的には読み味は雰囲気があるというか、深みがあるというか、余韻がのこるというか。高度に発展したくだらない話は、私レベルではSFや文学と区別がつかないというかなんというか。他作品を読んでも感じた作者の頭の良さと真摯さがあらゆる方向に発揮されているような、あるいは手癖でそう見せかけているだけなのか。最終的には「あーそーゆーことね完全に理解した(わかってない)」状態になっている私がいました。そんな中で本当にただひたすらにくだらないだけの話として輝いていた「犬か猫か?」が好きです。お前それどうでもええわ! っていう。

あとは、政情が不安定な時代を背景に、失われつつある言語で物語を筆記する使命を与えられたAIと、演技性パーソナリティの少女の関係を描いたボーイミーツガールな「アニマとエーファ」が普通にめちゃくちゃ面白かったです。好き。

それと宇宙ステーションを舞台に大の大人が本気で野球盤対決する「星間野球」は最高でしたが、これ本当に「盤上の夜」に収録されないで良かったな!!

要するに宮内悠介作品というのは、文学賞で候補になるような大真面目と本作のようなくだらないの両極端にあるわけではなく、当たり前のようにその間にあるものかなと思います。方向としては何も差分はない、というか。そして、そこから生まれてくるものが私は好きだなと思った短編集でした。