友達以上探偵未満 / 麻耶雄嵩

 

友達以上探偵未満

友達以上探偵未満

 

 これまでもやたらめったら尖った探偵を様々に生み出してきた麻耶雄嵩最新作は、また新しい探偵の在り方を生み出すものでした。

3編からなる1冊で、2編目までは読者への挑戦状形式のミステリ。女子高生探偵、伊賀ももと上野あおの桃青コンビが、ももの姉である刑事の空から協力を得つつ事件解決に挑むというもの。考えなしに突っ走るアッパー系なももと、人見知り気味で理知的なダウナー系のあおのコンビが良い感じのライトなミステリになっています。

とはいえ実際論理的な推理をしているのはあおの方で、ももは思い込みと行動力で素っ頓狂な推理をぶち上げるだけのよう。ただ、解決編まで来ると、論理的な部分を担当しているあおと、直感とひらめきを担当しているももという、分業制の名探偵であることが分かるので納得。

それなら帯のキャッチコピーである「勝てばホーム、負ければワトソン」の推理勝負とは? という感じなのですが、そこは3編である「夏の合宿殺人事件」で明らかに。2人で1つの名探偵である桃青コンビの始まりの話が、それまでのもも主観の視点では見えなかった歪みと共に現れて、この作品自体が名探偵という構造をめぐる物語だったと明かされるのがなるほど麻耶雄嵩という感じです。

欠けたピースとしてワトソンを欲したホームズが、自分だけではホームズになれないと悟って片割れを欲する。役割を奪い合う推理勝負の裏にあったあおの心情は、これまでに見えていた2編の見え方を変えるだけのもの。名コンビのように描かれていた桃青コンビはお互いがお互いを切り離せない、名探偵という構造から生まれた共依存関係。もも視点だと見えていた微ラブ要素までも、探偵という枠組みに回収されていくのが、最上位に探偵という概念が君臨する麻耶世界という感じです。

そしてこの関係、自分がコントロールをしていると思っているあおの方が依存が深くて、ももが論理的思考ができるようになって独り立ちされたら困るから、ももの推理を強めに否定しているというのがまた。そのくせ、対人交渉一般は、ももに出会った頃はこんなにじゃなかったと言われるほどももに頼りっきりというのがかなり危ういです。

思った以上に危ういバランスの上で成り立つ2人で1人の百合探偵はつまり、名探偵という構造が生み出した、共依存百合という関係性。なるほどタイトルは「友達以上探偵未満」でしかありえない訳で。

ただ、この一冊ではそういう関係であることが提示されただけで、できれば続編で、この2人の間にあるヤバさが浮かび上がってくるような事件が読みたいなと思いました。いやだってこれ、片方が片方を殺して最後の事件、みたいな事もあっておかしくないポテンシャルを秘めていると思うんですよね……。

しかしこう、「化石少女」でも思ったのですが、作者の女子高生描写はもうちょっと自然にならないものかというのは少し思ったり。